第1話 廃教会の噂
梅雨も明けていよいよ夏がくるという暑さの朝。外では蝉がうるさく鳴いている。まだ7月なのにこの暑さということは,夏休みの頃にはいったいどれだけ暑いのだろうか。年々暑さが増していっている気がする。俺は気怠さでベットから起き上がれず,二度寝を企てるのだが......。
『ピンポーン』
そうはさせないとインターフォンが鳴り響く。幼馴染からのお呼び出しである。
「カイー,まだー?」
俺の名前を呼ぶ声がする。ちなみに苗字は深海(ふかみ)。よくシンカイと間違われるがフカミである。深海カイ。
「あー,ちょっと待っててー。」
幼馴染の名前は白銀(しろがね)エリ。同じマンションの2つとなりに住んでいる。小中高と同じ学校に通っていて,平日は毎朝一緒に登校している。
俺は制服に着替えながら用意されていた朝食の食パンを急いで食べる。俺の両親は今どき珍しくもない共働きで,学校が近いためギリギリまで寝ている俺よりとっくに早く家を出発しているためこの時間にはもういない。
家を出ると少し不機嫌そうなエリが腕組をしながら立っていた。
「遅い!」
「いやぁ,暑さで起きるのがめんどくさくなって......。」
「はぁ?」
そんな会話をしながら学校へと向かう。まだ遅刻の危険性はない時間だったから走る必要はなさそうだ。
「そういえばカイ,あの噂聞いた?」
「噂?」
「最近,例の廃教会に夜な夜な出入りしている人がいるって話よ。」
俺たちのマンションから学校までの通学路の間に前を通ることができる廃教会がある。いつから教会としての機能を失っているのかは知らないが,俺が物心ついた頃にはもう廃教会と化していた。小さい頃にエリと一緒に忍び込んで探検してみたこともあったが特におもしろいものもなく,ただ単に元教会って感じだった。その教会に出入りしているだなんて物好きな奴もいたもんだ。
「どこから出た噂なんだよ」
「1階のおばちゃん。」
「うーん,あのおばちゃんかぁ。」
俺たちのマンションの1階に住んでいるおばちゃん,毎朝廊下で掃き掃除をしながら他の住人に世間話で噂を流している。その噂の信憑性は五分五分ってところだ。
「ついにあの廃教会も取り壊しで業者が入ったとか?」
「それならわざわざ夜じゃなくてもいいでしょ。」
「それもそうか。」
1階のおばちゃんからの噂なのでほんとかどうかわからない。なにかの見間違いの可能性も大いにあるのだが......。
「ちょっと調べてみるか。」
「そうこなくっちゃ!」
俺とエリは高校1年生にもなって,いまだにこの手の噂の真相を調べたり探検したりすることが大好きだった。
「おばちゃんに噂の詳細を聞いてこないとね。夜な夜なといっても何時頃か見当がつかないと困るもん。」
「それ聞いたらその時間帯に張り込みでもしてみるかな。今週金曜の夜とかなら翌日学校もないし遅くても平気だし。」
「じゃぁ,その予定で!今日帰りにおばちゃんに噂の詳細を聞きにいくね!」
そんなこんなで週末の予定が決定した。
はたして噂は本当なのか。あの廃教会になにかおもしろいことでもおきたのか。いまから週末が楽しみだ。
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