第35話 少年たちとの再会

 マティアスは夢を見ていた。大型の長毛種の猫メインクーンを自分の膝の上に乗せて撫でている夢だ。


「やっぱり猫は癒されるな。軍事基地で猫を飼えたらどんなに幸せなことか」


 軍事基地ではペットを飼うことが出来ない。だからこそ猫と触れ合えるこの瞬間が天国のようだった。

 しばらく猫を撫で続けていると、猫は後ろ足で立ち上がってマティアスの顔にタッチする。

 猫は突然巨大化し、体長2メートル程にまで達した。巨大化した猫がマティアスの体を押し倒し、重くのしかかる。


「おい、やめろ! そんなデカい体で寄ってこられたら押しつぶされる!」


 巨大猫に抱き着かれ、押しつぶされそうになったところでマティアスは夢から目覚めた。

 気がつくと、隣で寝ているハンニバルがマティアスを強く抱きしめている。


(まさかあの巨大猫の正体がこいつだったとは……。確かにあの戦い以来、ハンニバルは少し猫っぽくなった気がしなくも無いが)


 マティアスはやれやれな表情でハンニバルの腕をそっと解き、部屋の冷蔵庫の中を物色する。

 昨日はハンニバルに食事を作ってもらったから、今度は自分が朝食を作ってあげようと思ったのだ。

 冷蔵庫には肉や飲み物の他にフルーツも入っている。


「ハンニバルの奴、なかなか気が利くじゃないか」


 マティアスはフルーツが大好物だ。ハンニバルはそれを分かった上で、冷蔵庫にマティアスの好物を入れておいたのだ。

 マティアスは冷蔵庫のフルーツを数種類取り出し、包丁を使ってカットしていく。

 そうしているうちに、カットフルーツ盛り合わせが出来上がった。

 フルーツ盛り合わせにトースト、ソーセージ、紅茶を添えたところで朝食は完成した。

 マティアスが2人分の朝食をテーブルに並べたところで、ちょうどハンニバルが目を覚ます。


「おはよう、ハンニバル。ちょうど朝食が出来たところだ。一緒に食べようか」

「……おはようさん。どうりで旨そうな匂いがしてたのか。ありがたく頂くぜ」


 ハンニバルは眠そうに目をこすりつつ、テーブルの席につく。2人は目の前の料理を食べ始めた。


「なぁ、ちょっとフルーツが多すぎないか? まぁ、俺はいくらでも食えるから良いけどよ」

「お前は肉食に偏りすぎだ。たまにはフルーツも食わなきゃ駄目だぞ」


 マティアスは山盛りのフルーツを喜んで食べる一方、ハンニバルはもっと肉を食べたいと思いつつフルーツを口にする。

 2人は朝食を終えると、朝の支度を済ませ、外へ出かける準備をした。

 プライベートでの外出なので、2人とも武器は一切持たず、ラフな私服を着ている。


「ハンニバル、私とお前が初めて出会った日にお世話になった貴族のことを覚えているか?」

「あぁ、覚えてるぜ。エーリッヒのとこの家族だよな? 久々に会いたくなってきたよな」

「さすがだな。私もちょうどエーリッヒ達に会いに行こうと提案しようと思っていたところだ。では一緒に行こうか」


 2人は部屋を出て軍事基地の外へ向かう。

 エーリッヒの家族、シュタイナー一家は2人を宿に泊めてくれて家族のように受け入れてくれた命の恩人だ。

 2人ともシュタイナー一家との再会をとても楽しみにしていた。

 軍事基地の入り口付近に向かうと、2組の親子が楽しそうに会話をしているのが見えた。しかも2組とも見覚えのある姿だ。

 1組目はシュタイナー夫妻とエーリッヒ、2組目はアーサー大尉とその妻子だ。

 アーサー大尉と面識があるのはハンニバルだけで、アーサー大尉の隣に立っている息子は、かつて2人にビデオレターを送った、騎士のコスプレをしていた少年だ。

 なぜシュタイナー一家が軍事基地にいるのかは不明だが、わざわざ森の奥にある貴族の屋敷に向かう手間が省けたので、2人にとっては好都合だった。

 2人はシュタイナー一家の元へ駆け寄る。


「皆さん、お久しぶりです」

「よお、エーリッヒ! 会いたかったぜ!」


 2人は挨拶をすると、シュタイナー一家もこちらを向く。


「あ、マティアスさんとハンニバルさん! 僕、ずっと会える日を待っていたんだよ!」


 先に返事をしてくれたのはエーリッヒだった。エーリッヒは2人に飛びついたが、その直後に何か異変を感じたのか、動きがピタリと止まる。


「ねぇ、マティアスさん。どうして目の色が赤くなってるの? ハンニバルさんも前より強そうな体になってるね」

「これは色々事情があってだな……。エーリッヒも少し大きくなったじゃないか」

「あぁ、俺だってあんだけ鍛えたら少しくらい見た目は変わるっての」


 マティアスはエーリッヒを見て微笑ましく、ハンニバルは自分の筋肉をアピールしながら返事をした。


「マティアス君、ハンニバル君。いきなりここにやって来てすまない。エーリッヒがどうしても君達に会いたいって言うものでね」


 エーリッヒの父親のハンスが一家で軍事基地へやって来た事情を説明した。

 2人もちょうどエーリッヒ達に会いたいと思っていたので「自分達も同じ」だと返事を返した。

 その様子を隣で見ていたアーサー大尉が口を開く。


「ハンニバル、ここで会うとは奇遇だな。そしてマティアス、君のことはハンニバルから聞いているよ。私はアーサー大尉だ。以後よろしく頼む」

「初めまして、アーサー大尉。私はハンニバルの相棒のマティアスだ。よろしく」


 マティアスもアーサー大尉に自己紹介をした。

 すると、アーサー大尉の息子がマティアスとハンニバルの前に出てきた。

 中性的な美少年のエーリッヒとは対照的に、男らしく活発そうな雰囲気の茶髪の少年だ。


「すげー! この人達があのウェアウルフ隊を倒したんだね! 父さんはビビって任務に参加しなかったけど、この人たちは凄いよ!」

「このガキの言う通りだぜ。アーサーがあの時任務に加わってくれりゃ、マティアスは死にかけずに済んだかもな」

「おい、ナイト! ハンニバル! それは口出しするなって!」


 アーサー大尉は慌てた様子で止めに入り、一同は笑いながら見ていた。

 彼の息子の名前がナイトなのは、息子が立派な騎士ナイトになって欲しいということなのだろう。今のところ、父親も息子も騎士道精神など持ち合わせていないようだが。

 2組の親子の話によると、シュタイナー一家がエーリッヒの要望で軍事基地を訪れたところ、偶然アーサー一家と居合わせて雑談を交わしていたそうだ。

 エーリッヒとナイトはお互い軍人を目指す者同士、すぐに意気投合していた。


「父さん、母さん。オレ、このお兄さん達とエーリッヒと一緒に遊びたいんだけど良いかな?」

「僕も賛成だよ、ナイト君。マティアスさんとハンニバルさんも良いよね?」


 ナイトとエーリッヒが2人を遊びに誘う。

 子供達の両親はマティアスとハンニバルに迷惑が掛かるからやめるように言ったが、2人は子供達を連れて行くことを喜んで引き受けた。

 子供達の両親はアーサーの部屋でゆっくり楽しみたいとのことなので、マティアス、ハンニバル、エーリッヒ、ナイトの4人で遊ぶことになった。

 マティアスとハンニバルはまるで子供達の保護者になった気分だ。

 ハンニバルは3人を私用車へ案内し、マティアスを助手席に、子供達を後部座席に乗せた。


「よし、どこでも連れてってやるぜ! 行きたいところはあるか?」

「オレ、今話題の"マッキーワールド"に行きたいなー! あそこの遊園地は凄く広くて、マッキーやマニーに会えるんだよ!」

「僕も賛成だよ! クマのポーに会いたい!」

「私も賛成だ。たまには童心に戻って楽しむのも良いな」


 行き先は満場一致でマッキーワールドに決まった。マッキーワールドはアメリカ最大級のテーマパークだ。

 ネズミのマッキーとマニーの他に、クマのポー、アヒルのロナルドといった可愛らしいキャラクター達に出逢える夢の楽園である。

 ハンニバルは車を発進させ、一同はマッキーワールドへ向かって行ったのであった。

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