第19話 狂った科学者の最期

 外は日が暮れ、朝からずっと戦闘続きだったマティアスとハンニバルは疲れ果てていた。

 一旦引き返して軍事基地に戻ることも考えたが、先ほど倒したジェフの部隊のテントがたまたま近くにあったので、今晩はそこで休むことにした。

 テントの中に入り、ランタンの明かりをつけると、昼間の休憩の時に利用したテントと同じように、衛生品・食料レーションペットボトル飲料アイスティー・弾薬が入っている。

 もはや飽きるほど飲んだアイスティーだが、戦場では食料や飲み物を確保出来るだけでもありがたいことだ。

 戦いの後でお腹を空かせていた2人は、食糧とアイスティーを手に取り食事を始める。食事中、ハンニバルは一言も話さず、浮かない表情をしていた。

 アイスティーばかりの生活に懲りたのか、それともマティアスに殴られて落ち込んでいるのだろうか。マティアスはハンニバルの様子を見て心配そうに声を掛ける。


「ハンニバル、元気無いじゃないか。具合でも悪いのか?」

「……俺はな、あの鉄仮面野郎にタイマンで勝てなかったのが凄ぇ悔しかったんだ。俺は力勝負なら誰にも負けたことがなかったのに、あいつとの殴り合いに負けた。生まれて初めて敗北を経験したんだ。……ちくしょう! 勝ちたかったなぁ……あいつに」


 ハンニバルはジェフとの戦いで、自分が得意とする近接戦闘で勝てなかったことを悔やんでいた。

 巨大なロボットや生物相手ならまだしも、人間同士の一騎打ちで負けたのは生まれて初めてだからだ。

 そして、自分の力だけで倒したかった相手を2人がかりで殺してしまったことも後悔していた。


「お前の気持ちは痛いほど分かる。私も強い敵に痛めつけられる度に何度も悔しい思いをした。あの鉄仮面の男は改造人間としての身体能力に加え、軍人としての戦闘経験や技量も私達より遥かに上回っている、つまり熟練の兵士だ。その経験値の差が私達が単体で勝てなかった理由だろうな」


 マティアスは自分の思いを打ち明け、自分なりに感じたジェフの戦闘能力について語った。

 マティアスとハンニバルは常人をも凌ぐ戦闘力を持っているとはいえ、2人ともまだ若い兵士だ。

 改造人間かつベテランの兵士であるジェフにとっては2人とも青二才に過ぎなかったのだ。


「経験値ねぇ……、まぁ何度も戦ってりゃもっと強くなれるんだろ? 俺は難しいことを考えるのは苦手だから、テクニックを身に着けるよりも体を鍛えるぜ!」

「全くお前らしいな。それと、あの鉄仮面の男はウェアウルフ隊のボスでは無いことは分かるな? つまり、この先はもっと強い敵との戦いを覚悟しなければならない。その時は1人で戦おうとはせずに、お互いに連携を取って戦おう」

「あぁ、そうしようぜ。俺も敵の幹部ごときにやられてたんじゃ、ボスなんて1人で勝てる気がしねぇからな。ウェアウルフ隊のボスってどんな奴なんだろうなぁ」


 こうして会話をしつつ2人は食事を終えた。時刻はまだ20時過ぎだが、2人は疲れ果てていたので早めに消灯をして眠りについた。どうか、敵に見つからないことを祈りながら……。



 翌朝、2人は目を覚ますと残りの食糧とアイスティーを手に取り、朝食を済ませる。

 前日から弁当とアイスティーばかり口にしているので、早く軍事基地に戻って美味しいものを食べたいと感じる2人だった。

 2人は弾の補充をして準備を終えるとテントの外へ出た。早朝なので外はまだ暗い。

 まだ敵が就寝中であろうこの時間帯なら、攻撃を仕掛ける絶好のチャンスだ。

 2人は外を歩くにつれて、徐々に機械音が聞こえてきた。

 音が鳴る方向へ近づいていくと、そこには戦闘用ロボットの整備をする数人のエンジニア、そして、ロボットの操縦席にはかつて補給基地の研究室で出会った科学者・オズワルドの姿があった。

 戦闘用ロボットは高さ6メートル前後の二足歩行型で、中央後ろ側にはガラス張りの操縦席、右腕には巨大なチェーンソー、左腕には砲台が装着されている。

 ついに目標の敵を見つけた2人。しかも周りには戦闘可能な敵の兵士の姿が無い。

 2人は迷わず突撃し、マティアスは周りのエンジニアを素早く射殺する。

 戦闘用ロボットの操縦席にいるオズワルドにも発砲したが、操縦席は硬い窓ガラスで覆われており、傷一つ付かなかった。

 2人がロボットに乗っているオズワルドに近づいていくと、オズワルドも2人の存在に気づき言葉を発する。


「しつこい奴らめ。まだ生きておったか」

「もう周りには貴様の仲間はいない。貴様の悪行もここまでだ」

「また会ったな、科学者のジジイ。補給基地で俺たちにあの化け物を仕向けたことを後悔させてやるぜ」


 マティアスはオズワルドに銃口を向け、ハンニバルは両手をポキポキ鳴らす。

 オズワルドは頑丈なガラスで覆われた操縦席の中で携帯電話を取り出し、通話を掛ける。

 残りのウェアウルフ隊の兵士に助けを求めているようだ。しかし、電話の相手は出てこない。


「こんな時に寝ているとは役に立たん奴らめ……。今度はわし自ら、貴様らをあの世へ行かせてやろうぞ」


 オズワルドは戦闘用ロボットを起動させ、2人と戦う体勢に入った。巨大な戦闘ロボと戦うのは2人にとっても久しぶりだ。

 オズワルドは手始めにと左腕の砲台から小型ミサイルを数発発射した。マティアスは横に前転回避しつつ側面に回り込む。

 一方ハンニバルは避けようともせず、その場で立ち止まったまま被弾していた。案の定ハンニバルにはあまりダメージは無く、そのままバズーカで砲撃する。

 砲弾は操縦席の窓ガラスに命中したが、ダメージは無い。


「真正面からの物理攻撃は効かねぇか。こいつの弱点はどこにあるんだ?」


 ハンニバルはかつて兵隊崩れの拠点で戦った武装ロボとの戦いを思い出した。

 過去に戦った武装ロボとの戦いでは敵の弱点部位を見つけて勝利した。今回の敵もどこかに弱点が隠されているかも知れない。


「無駄じゃ。このロボット全体が特殊素材で出来ておる。貴様らの攻撃なぞ1ミリたりとも寄せ付けん」


 オズワルドはハンニバルに向かって突進してきた。さすがのハンニバルもこの攻撃は受け止められないと判断したのか、横に前転回避して背後に回ろうとする。

 するとその時、オズワルドが右腕のチェーンソーでハンニバルに斬りかかる。ハンニバルは避けて直撃を免れたが、チェーンソーが地面に激突した衝撃で軽くふっ飛ばされた。


「おい、マティアス! まだこいつの弱点が分からないのか!? このままじゃ一方的にやられちまうぞ!」


 ハンニバルが大声で呼びかけるが、マティアスの返事は無い。遠方をよく見るとマティアスがエンジニアの死体から道具を漁っているのが見える。

 何度もマティアスと戦いを共にしてきたハンニバルは、マティアスに作戦があることをすぐに察した。

 ハンニバルはマティアスがいつでも敵の背後から攻撃出来るように、オズワルドの気を引こうとした。

 

「あいつ、逃げやがったな! 俺1人で戦うのはさすがにキツいぞ……」


 ハンニバルはオズワルドの視界にマティアスが入っていないのを良いことに、マティアスが逃げたかのような発言をした。


「わしがそんな子供騙しに引っかかると思ったのか。もう1人の男が後ろにいるのは分かっておるわ」


 オズワルドはハンニバルの嘘をあっさり見破っていた。オズワルドはマティアスがいる背後へ向きを変え、今度はマティアスに向かって突進する。

 マティアスがその突進を回避すると、その場に転がっていたエンジニアたちの死体が突進によって勢いよく吹っ飛んだ。

 そしてマティアスは敵の攻撃を回避した直後、ロボの操縦席に向かってオイルが入った瓶を投げつける。瓶は操縦席の窓ガラスに激突して割れ、黒いオイル塗れになった。

 オズワルドは右腕のチェーンソーでマティアスを追撃しようとしたが、黒いオイルのせいで視界が悪くなっており、攻撃は空振りに終わる。

 

「ぬぅ……小賢しい真似をしおって!」


 周りが見えづらくなったオズワルドはその場で回転しながらチェーンソーを振り回したり、ミサイルを放ったりしていた。

 マティアスとハンニバルは回避に専念しつつ、マティアスは隙を見て今度は手榴弾をロボの操縦席に投げつける。

 手榴弾が操縦席の窓ガラスに命中し爆発すると、操縦席周辺は勢いよく炎上した。

 すると、窓ガラスが炎の中で徐々に変形しているのが見える。

 オイルにより温度が上がった炎の熱によって、徐々に窓ガラスの耐久性が落ちているのだ。


「今だ、ハンニバル! 窓ガラスを割って奴を引きずり出すんだ!」

「この時を待ってたぜ!」


 ハンニバルはロボの操縦席によじ登り、渾身のパンチで窓ガラスを破壊する。

 強靭な肉体を持つハンニバルは炎の中に入ることに抵抗は無かった。

 ハンニバルは操縦席からオズワルドを引きずり出し、燃え盛る炎の中に突っ込む。


「ぎゃああああああ!! わしの研究があああああ!!」


 オズワルドは自身の研究への強い未練を残しながら、黒焦げになって絶命した。2人はついに敵のメインターゲットの討伐に成功したのだ。

 

「よっしゃあ! 楽勝だったな!」

「ロボとの戦い方は過去の戦いで学んだからな。これで諸悪の根源を1人倒すことが出来た」


 今までの敵と比べると割とあっさり倒せた感があるが、メインターゲットを倒したことにより、2人は達成感と安心感で溢れていた。


「なぁ、このジジイ倒したってことは、俺達はもうウェアウルフ隊と戦う必要は無ぇんじゃねーか? さっさと帰ろうぜ」

「……いや、浮かれている場合じゃない。あそこから敵がこっちに向かってきているぞ」


 喜びに溢れていたのも束の間、遠くから敵の兵士達が近づいているのが見えた。

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