第13話 補給基地襲撃

 次の部屋に入ると、そこには大量の弾薬が詰まれた武器庫があった。

 奥にはサイボーグ兵10数人と、赤いスーツで身を包んだピエロメイクの男が立っている。

 ピエロ男は口の両端が裂けた様な笑みの白塗りの顔をしており、腰の両サイドのホルスターには銃剣が装着された短機関銃を2つ身に着けている。

 敵兵達はマティアスとハンニバルの侵入に気付くと、一斉に武器を構えた。


「侵入者発見~! 撃ちまくってやるぜ~! ヒャハハハ~!」


 ピエロ男は狂ったような口調で叫び、両手に短機関銃を構え、銃を乱射してきた。

 周りのサイボーグ兵達もこちらに銃撃を仕掛けてくる。

 マティアスは銃撃を避けつつ機関銃でサイボーグ兵達を撃つが、敵の身体が機械化しているので銃撃ではあまりダメージが通らない。

 一方、近接戦闘が得意なハンニバルにとっては屋内戦は好都合で、バズーカを振り回して周囲の敵を殴り飛ばしていった。

 殴り飛ばされたサイボーグ兵たちは壁に勢いよく叩きつけられ、そのまま動きを停止する。

 そして、バズーカ攻撃を避けた数人のサイボーグ兵達が高くジャンプし、マティアスにナイフで斬りかかってきた。


「マティアス、こいつらに銃はほとんど効かねぇぜ。近接攻撃か他の道具で蹴散らしてやれ!」

「あぁ、分かった。こんな狭いところで手榴弾は使いたくなかったが、やるしかないようだな」


 マティアスは手榴弾を取り出し、残ったサイボーグ兵達とピエロ男に向かって投げつける。

 サイボーグ兵達は爆殺することが出来たが、ピエロ男は手榴弾を軽々と避け、その後両手を広げて高速回転しながら2丁の銃で乱射してきた。


「ヒャハハハ~! 近づけるもんなら近づいてみやがれ~!」


 ピエロ男は無数の弾丸を放っている上に、両手の銃に銃剣が装着された状態で高速回転している。

 うかつに近づけばズタズタに引き裂かれるだろう。

 マティアスの銃撃は高速回転で弾き返され、手榴弾も軽々と避けられてしまった。

 マティアスはピエロ男が放つ無数の弾丸でダメージを受けていく。


「マティアス、銃撃が効かない奴は俺に任せろ!」


 ハンニバルがピエロ男に向かって走りだし、再びバズーカを振り回した。

 ピエロ男は回転しながらジャンプで軽々と避けるが、いくら素早い身のこなしのピエロ男でもさすがに空中では自由自在に動けない。

 ハンニバルはジャンプ中のピエロ男をバズーカで叩き落とし、転がり落ちたところを押さえつけた。


「ヒャハハハハ……」


 ピエロ男は体を押さえつけられても焦る様子も無く、ただただ笑い続けている。

 この男は過酷な人体実験で完全に正気を失い、戦争のための兵器に成り果ててしまっていたのだ。


「これが改造に改造を重ねた人間の成れの果てか。来世では普通の人間として生きられると良いな」


 ハンニバルは憐れむような表情でピエロ男の首をへし折る。ピエロ男は絶命してもなお楽しそうな表情をしていた。


「ハンニバル、またお前に任せてしまったな」

「気にすんなって! 近接戦でなんとかなる敵は俺に任せろ!」


 ハンニバルはそう言って励ましてくれるが、マティアスは改造人間の敵と戦うようになってからは苦戦する機会が増えたことを気にしていた。

 いくら自分が鍛えていても、生身の人間と改造人間との間では超えられない壁があることを。

 いっそのこと自分も改造人間になればハンニバルと張り合えるようになるかも知れない、とさえ思っていた。


「……ハンニバル、私も改造人間になればお前と同じくらい強くなれると思うか?」

「急に何を言い出すんだよ!? お前はさっきの奴らみたいになりたいのか!?」


 マティアスの突然の問いかけにハンニバルは驚く。


「いや、そうじゃない。改造人間達と戦って自分の無力さに気付かされただけだ。何より、私はお前と対等の立場になれるくらい強くなりたいとずっと思っていた」


 マティアスは強くなりたい思いを語った。ハンニバルはマティアスにかける言葉を数秒間考えた後、返事をする。


「力は俺が勝っていても、お前は俺には無い冷静さや器用さ、判断力があるじゃねぇか。俺だってそんなお前を頼りにしながら戦っているんだぜ。改造人間になると、どこかしら精神に弊害が生じてしまうんだ。とにかく俺は、お前が改造されて性格が豹変しちまったら嫌だぞ!」


 ハンニバルは肉体改造によって人格を破壊された人間を数多く見てきたからこそ、自分の親友がそうなってしまうのを何としても避けたかった。


「あぁ、分かった。そこまで言うなら私は今のまま頑張ることにするよ。この肉体で戦えるうちはな」


 マティアスはあっさり返事を返したが、本心では今のままでいて欲しいと言ってくれたハンニバルに感謝していた。


「もうあんなこと言うんじゃねーぞ。さて、そろそろ次の部屋行くか?」

「あぁ、いつでも大丈夫だ」


 2人は互いに準備万全であることを確認し、次の部屋への扉を開けた。

 そこには人間はおらず、20数匹ほどの双頭の犬が放し飼いにされている。普通の犬では無いのは明らかだ。この犬達も改造された生物兵器なのだろう。

 2人が部屋に入った瞬間、その場にいる犬達が2人の侵入に気づき、大きく吠えながら襲い掛かってきた。


「頭が2つある犬だと!? コックが言っていた生物兵器ってこいつらのことか!?」

「いや、コックは最深部に巨大生物兵器がいるって言ってたぞ。どちらにしろ、何の罪もない動物まで改造するとは腐った連中だ」


 マティアスは動き回る犬達を銃撃で撃ち抜き、ハンニバルはいつも通りバズーカを振り回して薙ぎ払っていく。

 改造された双頭の犬は通常の犬よりも遥かに素早く、2人は攻撃を命中させるのも一苦労だった。

 生き残った犬達は2人に接近すると、噛み付こうと飛び掛かって来た。

 ハンニバルは腕や足を噛み付かれても無傷で、自分に噛み付いている犬を片手で掴んだ後、思いっきり壁に向かって投げつける。

 投げ飛ばされた犬は壁に激突すると同時に「ギャン!」と声を上げて即死した。

 マティアスは自分に飛び掛かってきた犬をパンチやキックで次々と蹴散らし、それを銃で追撃して仕留めていく。


「マティアス、やっぱりお前はそのままでも十分強いじゃねーか!」

「たかが犬ごときにやられていては、軍人などやってられないからな」


 敵の数は多かったが、武器を持っていない分、難無く一掃することが出来た。

 ずっと戦い続きだったので、2人は次の戦いに備えて少しの間休憩し、傷の手当てをすることにした。

 この次の部屋こそ最深部なのだろうか。扉の向こうからは今までとは違うオーラを感じる。

 コックが言っていた巨大生物兵器がこの先にいるかもしれない。

 ハンニバルが次の扉に近づくと、何かを感じ取ったかのように話した。


「おそらくこの先の部屋が敵の研究室だ。機械があちこちに仕掛けられているのが分かるぜ。そして、今まで戦ってきた奴らよりも遥かに強い奴の気配を感じるぜ。マティアス、覚悟は出来ているか?」

「あぁ、傷の手当てはもう済んだから準備バッチリだ。どんな強敵が現れても私たち2人なら大丈夫だ」

「お前も前向きになったな。それじゃ、先へ進むぜ」


 2人は緊張しつつ次の部屋の扉を開けた。

 最深部は天井も部屋もとても広く、多くの培養カプセルや機械が設置されている。

 ここには巨大生物の姿は見当たらないが、どこからか強い殺気が伝わってくる。

 奥には白衣を着た白髪の老人が席に座っていた。


「貴様ら、わしの研究の邪魔をしてどうするつもりなんじゃ?」


 老人が立ち上がって2人に声を掛けた。

 どうやらこの男が敵軍の改造人間や生物兵器を作っていた張本人のようだ。


「この周辺の敵を一掃するのが我々の任務だ。貴様の非人道的な実験に終止符を打つ!」

「その通りだ。俺はジジイ相手でも容赦しないぜ」


 2人は老人に向けて武器を構える。

 老人は武器を持たない丸腰の状態だが、余裕の笑みを浮かべていた。

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