第14話 片思いは辛いよ ※ 貴也視点


 実はその頃俺にも付き合ってる相手がいた。

 好意を向けられる事は割とある方だし、仲良くなった延長で付き合うってのは当たり前だと思ってた。

 相手の事を良く知ってから──

 そうじゃないと何か落ち着かない方だった。


 でも三上さんの事は良く知らない。

 サークルに来るって言っても、そんな活発な活動内容じゃないし、当たり前だけど日向が来なければ三上さんは来ないし上に、日向が来るからって必ずしも三上さんが来る訳じゃない。


(気になる……)


 会いたい、話したい。

 何だろこれ……今まであんまりこういう感情……持った事なかった……


 そしてこんな感情に振り回されてる間に、俺は彼女に振られてしまった。

 ……女の子って変に勘がいいっていうか……

『私の事なんて大して好きじゃないんでしょ!』


 問い詰められて固まった。

 多分、そんな事ない、好きだ。って言えば良かったんだろう。けど……何故か言えなくて、破局した。


 でも気持ちを引き摺る事も無かった。

 少しだけ罪悪感は、湧いたけれど……




 気に入らない日向の彼女だからって邪険にするのは何か嫌で、初めからいつもニコニコ挨拶してた。

 最初は取り繕ってきたものが、いつの間にか会えるのが素で嬉しくなっていて。


 笑顔が自然と溢れるようになった事は、マネージャーの亜沙美にあっさりと指摘された。

『あんたねえ……』

 溜息混じりに呆れた目を向けられる。


 亜沙美はそういう気質というか、面倒見が良くて、たまにお節介な奴。そのせいか人を良く見てる。

『皆が幸せに、なんて言わないけどさ。雪子ちゃんに迷惑かけないよーに』


 幸せな奴は余裕があるもんだ。

 あいつはサークルのキャプテンと上手くいってて、進路に迷いもない。今現在、悩みらしきものがなく幸せな人生らしい。

 今は人の世話を焼くのに精を出してる。


 もうその頃には俺は三上さんを見つけると、主人を見つけた犬並みに嬉しくてたまらなかったから、あいつには俺が、千切れんばかりに尻尾振るってるようにでも見えたようで。まあ事実に近いし、特に否定もしなかった。

 不憫なものを見るような顔は向けられたけれど……




 そんな生活を送っていると気付いてしまう。

 日向が幼馴染に度々会っている事に。

 ささやかな言動から。なんとは無しに感じ取るそれらの疑惑から。


 ──何で俺、日向の一挙手一投足なんて気にするような真似してるんだ? 俺がお前の彼女かよ。気持ち悪。




 そしてある日、日向と幼馴染らしき人が、学校の近くで仲良さそうに歩いているのを見かけてしまったから、もう確信しかない。

 三上さんが一途と、美徳として捉えた長所を盾にとり、二股まがいの事をしているあいつ。

 加えてこんな学校の近くで……彼女を舐めてるんだろうか……


 もしバレても、「幼馴染だから。雪子にも紹介した事があるから。自分は大事な幼馴染を疎遠になんて出来ない」なんてあいつの開き直った態度を想像しては、自分勝手な主張に苦い思いが込み上げる。


(ムカつく)


 何がムカつくって、きっと三上さんは日向の思い通りの反応をするところがだ。

『恋人が大事にしている幼馴染に、自分も会った事がある』

 そんな相手との関係を疑う、自分の方を嫌悪してしまうんだろう。


 ──俺は違うと思う。


 ……なんて話をしたところで、三上さんを傷つけるだけだ。彼女が今しがみついている価値観を真っ向から否定すれば、きっと彼女は辛いだろうから……


 だから、せめて……三上さんが傷つかない方法で気付いて欲しいと、そう思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る