第4話 頭痛がやまない週明け、月曜日
『将来は公務員になりたいわ』
進路指導の講義を受けて、用紙と睨めっこしながらぽつりと呟く。
『雪子は堅実だな』
智樹は公務員には興味が無さそうだった。
(でしょうね……)
勝手に決めつけては、けれどこっそりと同意する。
(だってあの子は──愛莉さんは、デザイナー志望だものね)
智樹の可愛い幼馴染の愛莉さんは、服飾系の専門学校に通っている。彼女の可愛らしい雰囲気には、なんともお似合いな学校だ。
ちらりと智樹を盗み見る。
少し癖のある黒髪に、四角いフレームの黒縁眼鏡。
真摯で物静かな雰囲気がとても素敵な智樹。
でも……
(智樹は真面目だから……)
だからこそ愛莉さんのような、無邪気な女の子が可愛くて仕方がないんだろうなあ、と思う。
私は、どちらかというと、自分と似た価値観を持ってくれている智樹が安心出来て好きたったけど……
そっと息を吐く。
『親の勧めなんだけどね、でも私の性には合ってるみたいだし。それに好きな事を突き詰めて生きて行くのって、カッコいいって思うんだけど、それに人生を全て捧げるのはちょっと怖いかな』
『……俺もそう思うよ』
(なのに……だから、かな……結局あの子を選んだよね。自由に生きるあの子と同じ会社をさ……)
はあっと溢れる長い息を吐き、目の前のお弁当を見つめる。
一人暮らしは食費の管理も厳しいのだ。
まだ社会人一年目。公務員とて、それ程のものでは無い。加えて趣味は貯金な私であり、目指せ幸せな老後生活! をスローガンに掲げる私の辞書に無駄遣いの文字は、あるけど無い。
しかし今はそんな節制弁当と睨めっこしては箸が進まないでいる。理由は勿論──
「雪子ったら、河村さんと知り合いだなんて、羨ましいすぎるー。ね、後で紹介してね!」
「……だから大学が同じってだけで、接点なんて無いんだって……」
「ちょっと止めてー、私の恋のチャンスを潰さないでー!」
同僚の美夏はうきうきである。こちらの話は聞いちゃくれないようだ……
週明けの月曜日、河村君は私が務める部署の研修にいた。
え、河村君て……同じ職場だったの?
私は学生時代の希望通り、公務員になった。
河村君も同じ志望だったとは勿論知らないが、そもそも省庁も一緒だったなんて、驚きすぎる。
私は勿論放心した。
……身分証に見覚えがあったのは、勤め先が同じだったから。という訳で……お酒って怖いって、改めて思う。
──ここでは配属後、二週間ほど関連部署で研修を受ける制度が設けられている。これは部署間交流の一環にもなるとの事。
先輩の説明によると、忙しい時期はどうしても部署間でのやりとりが険悪になってしまうし、こういった関係作りで雰囲気が改善されるなら、という事らしい。
(でも何も今じゃなくてもさあー)
なんて自分の都合で不平を溢す。
一方の河村君は大して驚いた様子もなく、一人
それは元カレに貰ったピアス。
就業時間には着けていないけれど、あの日はデートだったから……仕事が終わってロッカールームで着けて待ち合わせ場所に行ったんだよ。
(滑り台遊びで無くなったと思ってたのに……)
残してたら未練が残りそうだったから。
それともあーゆーのも年取ったらいい思い出になるのかな。
今は見たくも無いんだけど……
河村君がわざわざ届けてくれたお陰で家でピアスが揃ってしまった。と、顔を顰める私に奴は更に言い募った。
『あ、なんかいらないみたいなんで貰っておこうかな。迷惑料の一部として』
──ちょっと、私の迷惑料どれだけ高いんですか? それ一応そこそこ良い値段の誕生石なんですが?? しかもお返しはいらないとか言っといて迷惑料は取るんかい。
……いやいや、いかんいかん。
確かに迷惑を掛けたのはこっちなんだから……それに確かにもう不要なものだ。が、何だろう。なーんか神経逆撫でしてくるような真似ばかりされてる気がするよ。
「河村さんて、彼女とかいるのかなー?」
「……さあ」
一転
まあ河村君と同じ部署で過ごすのはたったの二週間。業務全部を網羅するのは当然無理だし、担当外の私では仕事を通して話す事も無いでしょう。
「ああ、楽しみだなー」
何がだろう……
うきうきと食堂のパスタをフォークに巻きつける美夏を横目に、私は密かに息を吐いた。
(そんな事より失恋の相談に乗って欲しかったのになあ……)
初めての恋人との決別に、意外と大きなダメージを与えられている。今日は週の始まりの月曜日。
あー、二週間が長いなあ……
そうやって無理矢理詰め込んだお弁当はお腹の中でずしりと重く
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