第41話 ミサイル管制システムハック

最初、アメリカを中心とした情報機関は、中国のミサイル管制システムをハッキングし、中国国内でミサイルを爆破させようとした。新疆のミサイルセンターから、上海に向けて1発誤射させ、中国経済を混乱させる計画だった。そのハッキングチームに日本の数人のハッカーが選ばれ、賄賂に応じた中国軍幹部が、ミサイル管制システムにバックドアを仕込んだ。あとは、ハッキングチームが管制システムに侵入し、1つのミサイルの目標座標を上海に設定し、発射させるだけだった。


しかし、ここで一人のハッカーに出来心が起きてしまった。彼は日本の社会に適応できず、社会を恨んでいた。ミサイルの攻撃目標を上海ではなく、別の都市にしたら、その都市が滅ぶと気付いてしまった。


彼はアクセスできるありったけのミサイルの攻撃目標の座標に、世界中の大都市を設定した。東京に住んでいたので東京は外し、日本では沖縄の嘉手納基地を設定した。嘉手納基地に、極東最大の米軍の兵力があるので、中国のミサイル基地を攻撃されないようにだった。


日本の産業界は彼の動きに気づいたが、放任した。逆に、さらに中国軍の南方管区の司令官に日本侵略をそそのかし、嘉手納基地がなくなれば日本が無防備になるから侵攻するチャンスだとわざわざ教えた。なぜなら日本の政治は旧清和会の流れをくみ、アメリカ資本有利の政策を進めたため日本資本は押され気味であり、この機会にアメリカ資本を日本から駆逐したかったからだ。


私は、よく分からなかった。中国軍はそそのかし位で動くものなの?


私の問いに対し、会長は答えた。


「それが動くんじゃ。過去に他の実績もある。尖閣諸島じゃ。」



日本が中国に占領されたら、結局同じではないか?


「日本経済の実体は、日本企業の東南アジアの現地子会社のネットワークなんじゃよ、彼らは無傷じゃ。彼らが世界中にメイドインアジアの名で製品を送り出すが、その利益は日本に送金されるんじゃ」


日本はそれで良くても、世界中が核攻撃で被害を受けたら、日本製品の客がいなくなるのではないか?その問いに、彼は答えた。


「本質的に経済は、社会の変動を必要とするものだからじゃ」


永久のパートナー企業もいなければ、永久のライバル企業もいないし、永久の顧客もいない。あるのは変動のみ。社会の変動こそが、新たなビジネスチャンスを産み出す。


一時的に顧客の数は減るかもしれないが、問題はそこではない。市場が固定化されてしまうことが問題だと。


「みな、口には出さないが、社会の混乱を望んでおる。戦争を望んでおるんじゃ」


会長はそう言った。


私は、会長の、思想と人間性の二面性、解離性が理解できなかった。


思想は全く人を人と思っていず、完全に世界中を利益や損得で考えていた。そのためには人が何人死のうが気にしていない。


一方、人間性は、ごく普通の、寂しい老人のそれだった。それらが同時に一人の人物の中に存在していることが、不思議だった。

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