第11話 絞殺
段々、線路沿いに民家が増えてきた。まだこの辺りは停電しているようだから、ほとんどの家は真っ暗だった。でも、時々火を焚いているのか、明るい箇所がぽつりぽつりとあり、人が生活している形跡がある。
ガタンっと列車がブレーキを掛け、減速し始めた。周りは民家やら倉庫や2,3階建てのビルっぽい建物が増えてきた。やがて、何箇所か横揺れしながらポイントを通過し、引き込み線に停車した。
佐田倉さんが、周囲を見回りに列車から降りた。しばらくして、帰ってきて、ここが高山駅だと言った。
高山駅ならば、中国軍が見張っている可能性がある。皆すぐにここを離れるべきだという意見で、私達は列車を離れ、暗闇の中を歩き出した。少し歩いたところに、ボーリング場があった。敷地に入ると、荒廃しているというのが分かった。多分、停電以来、一度もオープンしていないのだろう。夜10時を過ぎていた。今日はここで野営をすることになり、私たちはリュックを下ろし、簡易食料を食べ、寝袋を出した。
私は今日一日ずっと歩いていて疲れていたので、すぐに寝袋に入った。しかし、なかなか寝付けず、しばらくそのままぼっーとしていた。
すると、後ろの方で話し声が聞こえた。佐田倉さんと浜田さんだった。なぜ白川郷の集合場所に中国軍が現れたのか?という話題だった。
「誰かが、情報を流したんじゃないか?」
浜田さんの声だった。私はじっとして、聞き耳を立てた。
「外と通信できるのは、通信機を持っている西村さんしかいない」
自分が疑われていた。じっと息を殺して、寝たふりを続けた。
彼らは私がアルバイトということも怪しいと言い出した。
「身元がはっきりしていないし」
浜田さんは続けた。
私はスパイ扱いされていた。もちろんそんなことないのは、自分がよく知っている。誤解を解きたいが、どうすればよいか分からない。
二人はその後、さらに小声で何か私のことを話していたようだが、声が小さくてよく聞こえなかった。
そして、しばらくして、私は眠ってしまった。
翌朝、起きると、張本さんと佐田倉さんはすでに起床し、浜田さんはまだ寝袋の中で眠っていた。佐田倉さんは、私を疑っているようなそぶりを表面的には見せなかった。私は誤解を解く、釈明をする機会がなかなか見つからなかった。
寝袋を畳み、携帯食料を食べた。
みな、ごそごそと動き始め、出発の準備をしているのに、浜田さんは全く起きるそぶりがない。
自分がスパイと疑われているのなら、皆の役に立って、スパイではないということを示すために、浜田さんに声をかけた。浜田さんは全く反応しなかった。寝袋の肩のあたりを押してゆさゆさと揺らしてみたが、同じだった。
なんとなく、浜田さんの口に耳を近づけて、寝息を聞こうとした。寝息が聞こえなかった。
「息してないみたい」
ぽつりと口に出した。
えっ、と二人が駆け寄ってきて、佐田倉さんが息を聞き、脈をとるために首筋に手を当てた。
「冷たい」
彼はぼそっと言った。浜田さんは死んでいた。
しばらく無言の間が過ぎ、佐田倉さんが無言のまま私を疑惑のまなざしでじっと見た。
「私じゃない」
とっさに口に出た。
浜田さんの寝袋は私が寝た場所に一番近かった。それに、昨夜の二人の会話のこともあった。
張本さんが、浜田さんの寝袋を開け、体の周りをいろいろ調べ始めた。
「絞殺みたい」
浜田さんの首には、ひもで絞められたような赤黒い斑点が付いていた。
重苦しい空気が流れた。こんな近くで殺人があり、状況から外部の人の犯行の可能性は低い。すると、結果的にこの3人の中に犯人がいることになる。さらに昨夜の会話で、私は疑われていたので、私には動機もあることになる。
「もう嫌だ」
佐田倉さんは声を上げた。
「もともと3人しかいないし、奪還は無理だ。あきらめよう」
佐田倉さんは弱気になた。
張本さんは全く無表情で、まるで他人事のようだったが、口を開いた。
「ここの協力員に、まず会ってから決めないですか?」
昨日の定時連絡で、協力員とは、高山市郊外の高校で、落ち合うことになっていた。一人でも仲間が多いほうが良いということになり、出発した。
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