第10話 貨物列車



翌日、耳元のガサガサいう音で目が覚めた。浜田さんが起きて、寝袋を畳んでいた。私も起き、その後全員が起き、携帯用の簡易食料を食べ、出発の準備を始めた。


川から離れて、山の中に入り、獣道のような道と言えるかどうかも分からないような道を進み、峰を越えて、昼頃にダム湖に着いた。一応キャンプ場があったが、誰もいないようであった。その後、舗装されていないガタガタ道に沿って進み、3時頃に、舗装された道に着いた。その道に従って進み、夕方5時頃に、民家が見え始めた。集落に入る前に、浜田さんが定時連絡をした。


高山市に協力者がいるから、制御装置と博士の居場所の情報を得よとの司令だった。


集落は、20世帯くらいの小さなもので、民家は人の気配が全くなかった。少し暗くなってきた。


今日はここで野営をしようかと、佐田倉さんや浜田さんが話していると、どこか遠くからガタンガタンと音が聞こえてきた。


「あっ、列車が来る」


誰かが呟いた。確かのその音は、列車の音で、段々はっきりと、大きくなってきた。


皆で音のする方へ走っていくと、川があり、その川沿いをディーゼル車がこちらに向かって来ていた。ディーゼル車は貨物を牽引していて、その貨物はずっと続き、最後尾が見えなかった。


ディーゼル車は川のカーブに合わせて私達の目の前で曲がり、ゆっくりとトンネルに入っていった。


続々と、貨物もトンネルに吸い込まれていった。


「急げ」


浜田さんが手で合図して、皆が線路に走りだした。貨物は次々にトンネルに吸い込まれていった。ふと見ると、貨物はあと後ろ3両しかトンネル外に残っていなかった。


男性3人は、うまくタイミングを見計らって、飛び乗った。次に張本さんが飛び乗った。


近くで見ると、貨物列車は、意外に速く、私は怖気づいてしまった。その間に、次々と貨物が目の前を通り過ぎ、最終の車両がガーと音を立てて目の前に迫って来た。


貨物列車の後ろの方の車両は貨物を積んでいなくて、台車だけだった。張本さんが私がまだ飛び乗っていないということに気づいて、台車の上をぴょんぴょんと後ろまで走って、最終貨車へ乗り移ってきた。


「西村さん」


彼女は最後尾の台車の上から、片手で自分の体を支えて、もう一方の手を私に差し出した。私は走り出し、手を差し出した。後、10cm。最後尾の台車がトンネルに入り、視野が暗くなり始めた。ここで手を繋がなければ、多分もう会えないだろう、そんな気がした。


私は最後の力を振り絞って、猛ダッシュした。


手が触れた。ギュッと握り合った。私は体力が続かなくなったのと、バランスを崩して、そのまま倒れ込むような体勢になったら、張本さんが握った片手を力いっぱい引っ張り上げた。私はもう一方の手で台車の端をつかみ、自分の体を張本さんの方へ引き寄せて、上半身を台車の上に乗せた。ハァーハァーと荒い息が出て、ぐったりと倒れ込んだ。


息が落ち着くと、ゆっくりと上半身を持ち上げた。


「ありがとう」


すぐ近くで張本さんも尻餅をついていた。


「なかなか来ないから、ヤキモキしちゃった」


張本さんは、ほんのりと良い香りがした。


この人、香水付けているんだ。


ちょっと意外だった。彼女はクールな感じはするけど、おしゃれというイメージではなかったし、それに今は作戦実行中だったからだ。


台車の上を前の方へ移り、先に乗った他の3名と合流した。


皆の足を引っ張っているようで、本当に心苦しかった。でも、素直にすみませんとは言えなかった。


「無事、乗れてよかった」


浜田さんが言った。ちょっと救われた気がした。


貨物列車はトンネルを抜けた。周りはかなり暗くなっていた。列車は川に沿って進み、何度かトンネルに入ったり、出たりして、途中小さな集落を何度か抜けた。小さな駅らしき場所も何箇所か通過した。



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