幕間① 各々の過去

 気がつくと私は、よく見知った自分の部屋に居た。まるでように、私は今これからゲームをしようと、しているところであった。


…あれ?…私、夢でも…見ていたのかな?…今の今まで、何処か違う場所にいたような、気がするけれど…。


そう不思議に思いながらも、私はふと1つのゲームアプリをクリックして、また何とも言えない気持ちになっていた。しかしアプリから、オープニングの音楽が流れ始めると、またいつものようにゲームに夢中になっていく。


私が今まさに夢中になっているゲームは、所謂男性向けとされているギャルゲーと呼ばれるものだ。別名は美少女ゲームと称されている、男性向けの恋愛ゲームのことである。しかし、私が夢中になっているこのゲームは、普段は腐女子系で有名なBL作家さんと、ギャルゲー系を手がけている制作者が、コラボして生まれた新感覚ゲームであり、ギャルゲーと謳いながらも乙女ゲーが混ざったような、中途半端なゲーム設定が逆に売り文句となっていた。


ギャルゲー制作者側から言えば、ギャルゲーの分野に新たな風を吹き込もうとしたらしいのだが…。簡潔に言えば、新たなファンを…女性のファンを、取り入れたかったようだった。


だからって何も、腐女子関連の作者さんじゃなくても、良かったのに。確か作家さんが、女性の気持ちも分かるし男性の気持ちも分かる人だから…と、期待されていたようだけど…。う~ん。私から見る限り、分かってないと思うけどなあ…。男性目線の女性が現実にはいないタイプだと、世の女性達が言うように、この場合も飽くまでも女性目線の男性だし、女性が好みそうなタイプだし、攻略対象である女性登場人物達も、女性が感情移入しやすいタイプだったしね。寧ろ、これって本当に男性向けのゲームなのかを、問い質したいレベルだよ。


ギャルゲー要素を残そうと後宮ストーリーにしたのだろうが、婚姻相手が1人しか選べない時点で、女性ファンを取り込もうと力を入れたと、分かるかな…。まあ、私もそのうちの1人では、あるんだけれどね…。


いつものように主役となる男性を選択し、その後は乙女ゲーと同様に、異性の好感度を高めていく。今日は、皇子みこにしようかな。腹黒で意地悪な俺様だけど、好意を寄せた女性にはめちゃくちゃ甘くなるんだよ。現実での皇子タイプは私には無理だけど、ゲームでこういう人物が恋に落ちるシーンは、堪らなく私の好みなのだ。


そう考えていた時、頭の隅で「現実と違う」という誰かの声がした気がして、思わずキョロキョロしてしまう。此処は、私が借りている一人暮らしのマンションなので、誰もいる筈がない。不思議に思いながらも、再びゲームに夢中になっていて。


だけど…皇子が攻略する過程で、また違和感が頭によぎる。…あれ?…何となく私が知っている皇子と、イメージが違うかも…。…ん?…皇子って、こんな名前だったかな…。そういう時々おかしな感想が、思い浮かんで来て…。


今の私は、夢と現実がごちゃませになっている感じだ。何処からが現実で何処までが夢なのか、よく把握出来ない。まるで、この今の現実が夢のような気さえしてくる、不思議な感覚もして。こうなるとさえ、分からなくなって来るようだ。


私は一度ゲームをする手を止め、ゲーム画面の彼をジッと見つめてみる。やはり…何かが、おかしい…。何かが変だと、頭の中では赤信号がチカチカと点滅するけれど。自分でもよく分からず困惑していると、ふと意外な事実に気付く。


…あれ?…彼の目の色が、違うような……。何故そう思うのか、自分でも理由が全く分からない状態なのに、以前見た時と違っている気がする…。以前…?…以前とは、何時いつのことなのだろう。つい、この前のような気もして……。


そこまで思って、また新たな疑問に気付いた私…。何かなのか、誰かなのかと比べているような…。ゲームのキャラと何かを、比べている私は…絶対におかしくて。目の色が違うというならば、一体どういう色だと言いたいのか…。それは決まっている、だってその色は……。


私はその色を思い出そうとして、急に頭が割れそうな痛みに襲われた。ズキン、ズキン…と激しく痛み、目の前が真っ暗になる。何も見えなくなって、自分が今何処に居るのかも分からなくなり、思わず大声を出しそうになった時…。


私は……目が覚めたのだ。やはり、夢だったのだ…。だけど、何の夢を見ていたのかは、私は…覚えていなかった。あれだけ…何かが変だと、不思議に思っていたというのに、本当に何1つ覚えていない。頭に靄がかかっているような感じで、まるでみたいに……。


一体、夢の中の私は、何を…見ていたのであろうか………






    ****************************






 僕には一生涯、絶対に消せない罪がある。僕は…生まれてはいけない、子供であった。この国には、禁忌と呼ばれる事柄が幾つかあり、僕は…その禁忌に触れる事情で生まれた、子供だったのだ。僕は「生まれてはいけなかったのだ…。」と、父や母に言われ続けそれでも今日まで生きて来た。


本来はこうして無事に生きることさえも、禁忌に触れるらしいと聞いた僕は、何時か誰かに消されてしまうのかもしれない、そう思うだけで怖くなる。僕は父や母の恩情で命が助かったのだと、そう聞かされていたこともあり、こうして檻のような所に閉じ込められていても、仕方がないのだと諦めていた。僕は、禁忌に触れる事情で生まれた子供なので、事情を知らない誰かに見つからないようにと、僕の両親という父と母に言い聞かされていた。


僕が生まれて来たことを知る人は、少数派ではあるけれども、それでも何人かは事情を知らされているようだ。その人達には黙っているようにと、その人やその家族にはお金や地位を与えられたと、僕の世話をする内の誰かが話していた。僕の世話をする人は決まっていたけれど、義務的に接するなのである。


僕の世話をする人が、僕の両親からそういう恩恵を与えられたようだ。僕が禁忌の子供だと知っていて、序でに世話もしてくれるらしい。父や母が僕の世話を出来れば良いのだが、父は仕事とやらが忙し過ぎて殆ど会いに来ないし、母は昔はよく此処に来てくれていて、僕の世話や話し相手になってくれたけれど、最近は体調を崩したとかで殆ど来てくれない……。


僕は此処から出られないし、僕から母に会いに行くことは出来なくて。僕は母が会いに来てくれるまで、ただ此処で待っていなくてはならない。此処では時間が経つのが遅くて、何もすることもなく暇で仕方がないのに。母が来てくれると本を持って来てくれたし、次に母が来るまでは時間潰しも出来たのに。


 「お前の母親は、もう長くない…。最後に、母親に会いに行くぞ。」


忘れもしないある日、父が僕を迎えに来た。真夜中に突然、僕の前に現れた父はそう言うと、僕を毛布で包み込むようにして、此処から僕を連れ出した。初めてこの檻のような所から出た僕には、毛布に包まれた所為で景色が見えなかったけれど。その時の僕は、とても緊張していたのだ。誰かに見つかれば、僕は死ぬことになるかも知れないのだから……。


母はあれから会わない間に、随分とやせ細っていた。半分ほどにしか信じていなかった僕は、本当に病気だったんだと知って…泣きそうになる。母は僕に会いに来たくても、来れなかったのだと思えば思う程、僕がその間、胸が苦しくて苦しくて……。


そうして僕を見た母は最期に、僕に笑いかけてくれた。そうこれが本当に、母の最期となってしまった…。これが死ぬということなんだと、身を以て母に教えられた気がして、僕は死ぬことが今まで以上に怖くて。


母が亡くなった後、僕の待遇は少しだけ変化した。僕が隠れて過ごすのは今まで通りだけれど、今までの檻のような場所には、戻らなくて良くなったのだ。そして僕は、夜だけは自由に出歩けるようになる。誰もが眠る間に動き回っても、誰かに見つかりさえしなければ良いのだと、父も許可を出してくれたのだ。昼間は眠り夜に自由に行動するという、僕の生活は通常と逆転していた。


そうしてこの生活を何年も過ごせば、僕は自分の置かれている環境が、知りたくなくともよく見えて来ていた。そういうことだったのか…。僕の家がお金持ちだと知っていたけれど、そういう事情があったのだ…。だから僕の存在は、誰にも知られてはいけないんだ…。


 「こんばんは。あなたは、ようせいさん?…それとも、りゅうのかみさま?」


その日の夜も僕は、庭を歩いていた。この頃になると、僕に勉強や剣術を教えてくれる人が居た。父が良く知るその人達は、僕の秘密を共有する人達でもあり、そして…僕の親戚でもあったりする。その頃の僕は、勉強や剣術を教えてくれる親戚の家に、暫く滞在していた。僕を父の家で隠すのも、限界があったからだと思う。


僕が出歩いている時そう声を掛けて来たのは、僕より小さな子供だ。僕のことを、妖精や竜の神様だと思ったらしい。初めて出逢う他所の子供に、見つかったのが幼子で良かったと、ホッとすると同時に僕はどうするべきか、戸惑っていた。どう応えるべきか…と。


 「きっと、あなたのことなのね?…わたしね、りゅうのかみさまに、たのまれたのよ。ふしあわせなひとがいたら、たすけてあげてって。わたしにしかできないんだって、いわれたのよ。」


そう真剣に話す子供に、僕は…心を許してしまう。何となく出会うべきして出会ったのだと、そう思った僕は自分の名前を教えてしまう。禁じられた僕の名前を…。


そしてその後、僕もあの子もそして…あいつも、これが切っ掛けに劇的に運命が変わって行く…。これが、だとは、知らずに………



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 今回で、序章編が終了となります。番外編なので、第三者視点ではありません。


敢えて誰の視点かは、此処では言いませんが。


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 前編と後編で、視点の主が違います。副タイトル通り、それぞれの過去のお話…というところでしょうか。


序章編はこれで終わりとします。次回からは、物語の前半部分が始まります。今回暗めで終了しましたが、決して明るい話とも言えないですが、最終的には初恋がメインの純愛ストーリーを目指しています。


今後も応援を、よろしくお願い致します。

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