Eye-Contact
寿 丸
第1話「狼山咲と犬塚六歌」
「君の目には音楽はどう映るの?」
そう尋ねられた俺は、「うん……」と腕を組んだ。
難しい問いだ。耳ではなく目。今までに考えたこともなかった。
「俺には無関係の世界、だった」
「だった。過去形なんだ。今は?」
「……わからない」
手持ち無沙汰にバチを振って、そう答えた。
「でも、今は楽しい。俺でも、楽しめる。音楽は……うん、多分俺のような奴にも差別しない、そんな感じ」
「差別か。確かに音楽は国境をも越えるよね」
アスファルトの上で
俺は六歌の顔を――口元の動きを注視する。
「
「たぶん。和太鼓サークル、あるから」
「わたしは高校で終わりかな」
「そう、なんだ」
「続けてほしい?」
「……どうかな。それは自分で決めること、だと思うから」
「そっか。そうだよね」
六歌は地面に目を向けた。
「————」
六歌が何かをつぶやいていた。でも、俺には聞き取れない。
「なんか、言った?」
「ううん、なんでもない」
「そうか」と俺はそれ以上聞けなかった。
俺は一年生の時から和太鼓部に入っていて、周りからそれなりに一目と、距離を置かれていたと思う。
俺は耳が聞こえない。
けれど周りの動きを見て、床の振動で、下打のバチの振りのタイミングに合わせて太鼓を叩くことができる。
時々、視線を感じる。
どうしてあいつが俺より上手いのかと。
思い過ごしかもしれない。面と向かってそう言われたわけじゃない。表情で、視線で、話し方で、太鼓の音でそうと感じるのだ。
確かめたことはない。そんな勇気はない。
そうして俺は今日も、黙々と太鼓を叩いている。
彼女——
人目を引く容貌だった。手足は長く、肩は細い。伏し目がちで、前髪を眉の上で切り揃えていて、後ろ髪は背中の高さでまとめている。
身も蓋もないことを言ってしまえば、和太鼓部の誰よりも美人だった。初めてバチを手渡されたのを見た時、太鼓を叩いた衝撃で腕が吹っ飛ぶんじゃないかと思った。
だが、彼女はまっすぐにバチを振り上げて――面を叩いた。
音楽室が震えたかと思うほどに。
その場にいる誰もがあっけに取られるほどに。
そして誰よりも驚いていたのは、六歌本人だった。面を叩いた彼女は「わぁ……」と目をぱちくりと開いていた。腕もバチも変な方向に跳ね上がることはなく、叩いた衝撃を体全体で受け止めていたのだ。
俺はこの時、彼女が気に入った。
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