人生を変えた魔法の神器

ヒラ少尉

第一章 あなたの思い叶えます。

第1話 ドクロなモノ

 僕は十代のころに不思議な体験をした。

 今日はそれをみんなに聞いてもらいたいと思っている。

 

 学校から帰宅し、自宅前のポストを覗き込むと見慣れない茶封筒がはさまっていた。


「ん、なんだこれ?」


 差出人不明の薄汚れた封筒だった。

 記憶を巡らすが通販などは利用してはいない、なんらかの資料請求もしてはいない、首をひねりながら封筒をひっくり返すと、裏面にはこう書かれてあった。


『あなたの思いを叶えましょう』


 見るからに怪しい文言である。

 首をかしげながら封を破ると、中から一本のペンが飛び出し僕の手のひらの上で転がった。

 ドクロ形のキャップが見える。メーカー名などは見当たらず、透けた本体からは不思議な光を放つインクが蠢いていた。

 ヤバイい感じが、どんよりと手のひらに伝わってくる。

 説明書らしきカードにはこう書かれてある。


『これは幸せを呼ぶペン! 名前を書くだけでその人はハッピー! なんと今なら三回まで使えます! あなたの愛で家族も知人も皆ハッピーにしましょう!』


「えぇ? ハッピーペン? 名前を書くとハッピーだって?」


 文面から察するに、名前を書くことで思いが叶い、結果的にハッピーになれるとのこと。だが、そんなことが可能なのだろうか? 実際に名を書いただけで徳をえるなら苦労はない。いやいや、ペンの形状からしてハッピーとは程遠いだろう。

 僕はドクロ型のキャップを外す。

 芯らしきモノが生物のようにが左右にうねっているのが見る。

 非現実的な光景に背筋が凍り、思わずペンを隠しキョロキョロと辺りを窺う。


 ――なんだこれ、僕はいったい何を見ているのだ。天使からの贈り物? いや違う、直感で言うならば、これは、悪魔の神器だ……。


 僕は隠れるように部屋へ籠った。

 気がつくと机に上にノートを開き、椅子に正座してペンを取り出していた。

 怪しいブツだが興味がないと言えばウソなのだ。


「名を書けばハッピーか……」


 そう呟きながらドクロのキャップをじっと見つめる。

 なぜドクロなのだろう、ハッピーを謳うならハート型にでもすればいいものだろうに、見た目だけならハッピーよりも不幸のペンといっほうがしっくりくるデザインじゃないか。


「罠か? これは罠なのか? そうだよ、これは不幸のペン、そうに違いない!」


 そう思った時である。ドクロの目が淡い光を放った。

 僕は悲鳴をあげてペンを机の上にペンを落とした。

 よく見ると光は消えている。まさか思い込みによる錯覚か? 僕は恐る恐るペンを指でつつき、手に取って覗き込んだ。

 どれだけの時間が過ぎたのかわからない。だが、どうしたいのか心では決めていたのだ。


「よし、とりあえず名前を書いてみよう……」


 しかし、いきなり自分の名を書くのはリスクがある。ここは適当な奴の名を書き様子を見るべきではないだろうか……。

 しばらく考えていたが、結局時間ばかりが過ぎ去り、誰の名も書くことなくその日は終わってしまっていた。

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