外れスキルを引いて追放された俺、望んだモノを手繰り寄せる超絶スキルの覚醒によって気がつくとマフィアの首領になっていた。

肩メロン社長

001 追放

「ユウリ・ユースティス様のスキルは……え…………【解析不可】です……」


「解析……不可?」



 目を点にして、思わず聞き返した俺に巫女様は申し訳なさそうに頷いた。



「あ、あー……そう、なんですか。えと、これって……どういうスキルなんですか?」


「えぇっと……申し訳ないですその、まったくわからないです。はい……これは、想定外ですねぇ」


「え、あ、ち……ちなみに、これ……やり直したりって……?」


「いやあ……できない、です、ねえ……」


「そ、そうですよね~……っ」



 チラリと、巫女様から壁際にたつ親父殿を見遣る。

 我が弟と妹に挟まれるようにして仁王立つ、いかにも厳格そうな親父殿が、凄まじい形相で俺をみていた。



 ユリウス・ユースティス公爵。

 文字通り剣一本で繁栄してきた一族の現当主である。

 


 ひどく恐ろしいので、とりあえず俺は現実逃避をするために、現状の理解に努めた。

 



 ――現在、唯一にして絶対である女神様から《スキル》を授かる《みそぎの儀》の真っ最中だ。



 禊の儀とは、いわゆる〝思春期〟と呼ばれる年代の子どもたちを集め、未熟な肉体に神の一部であるスキルを与え、不浄を寄せ付けないとかなんとか。



 俺と下の兄妹たちは親父殿の言いつけでこれまで受けることを許されず、俺が十七になったきょう、やっと儀式を受けられることになったのだ。



 儀式の歴史云々はあまり詳しくは知らないし興味もないけれど。

 この儀式によって与えられたスキルが、今後の人生を決定付けるモノであるのは確かだった。




「その~……つ、次のひとがいますので、その……」


「あ、はい。すみません、ありがとうございました……」



 しごく申し訳なさそうに頭を下げた巫女様にならい俺も頭を下げ、踵をかえし神殿を出ようと足を一歩踏み出した、その時だった。

 


「ユウリ……ユウリ・ユースティス」


「――は、はいッ!?」



 荘厳かつ冷酷な声音で俺の名を呼んだ親父殿。

 振り向くと、すぐそばに親父の巨体があった。



 さ、さすがは【剣聖】のスキルを持つ男。一瞬にして俺との距離を詰めやがった。


「私は……貴様に何を求めた?」


「じ……次期当主らしい……剣術に特化したスキル……を、と」


「結果、貴様はいかようなスキルを手に入れた?」


「か……解析、不可……でありまッ――ぶべらッ!?」




 頬に強烈な拳が炸裂し、俺はあっという間に神殿の外へ弾き出された。

 受け身を取ることもできず、地面を数度バウンドし、衝撃に引きずられながら……ようやく止まったかと思うと、誰かが俺の脇腹に足を置いていた。



「ふぅん……おにい、やっぱり雑魚」


「あ、アリシア……おまえ、兄ちゃんを足で……」


「止めてあげた。感謝して、雑魚おにい」



 ちゅぱっと卑猥な水音をはじかせて、咥えていたキセルを手に取った妹は、タレ目を細めながらぐりぐりとつま先を食い込ませてきた。


 

 脇腹に食い込んでくる爪先から生じる痛みにうめきながら、視界の端でチラチラ見える妹のパンツが大人びた黒だということを確認してから、俺は全力で逃げ出した。



「っ、ふぅ、くそ、おいアリシア……兄ちゃんになんていう仕打ちだよオイッ!」


「雑魚おにい。うるさい、雑魚おにい」


「あが――あ、ちょ、おまやめろばかっ!?」



 スラリとした脚が伸びたかと思うと、瞬間、俺の太ももを砕く勢いで蹴り込んできた。

 かろうじて足が折れることはなかったが、崩れ落ちた俺の背にアリシアが腰掛けた。



 重くはない。だが、なんだろう。この屈辱は……兄としての矜持をものすごい勢いで削がれていく。



 と、そうこうしているうちに厳つい親父殿が弟を連れて俺の前に現れた。依然として、妹は俺の背の上だ。



「アリシアは【剣豪】……ヨシュアは【剣鬼】……二人とも類稀なるスキルを獲得し、我がユースティス家の期待に応えてくれた。だというのに貴様は、【解析不可】などと外れスキルをかましおって……恥を知れ、恥を」


「……っ」



 冷水のように厳格な父親だった。

 それはこの十七年間、身に染みてわかっていた。長男として、次期当主として……厳しくなるのは仕方がないことだ。



 だが、ここまで……蔑まれるようにめつけられるのははじめてのことだった。



「親父。あまりムダは好きじゃない。結論からいってやろうよ」


「よ、ヨシュア……っ」



 細躯ほそくの長身。眼鏡を上へ押し上げた一個下の弟が、相変わらずの無愛想で言った。



「兄さん――いや、ユウリ。あんたからユースティスを剥奪する」


「つまりは――」


「追放、だよ。雑魚おにい」



 ヨシュアと親父の言葉を継いで、俺に腰掛ける妹のアリシアがそう、冷たく言い放った。






****






「外れスキルなど不要。外れスキルの無能は追放だ。このユースティス家の名に泥を塗ることは許さん。一刻も早く出ていけ」



 再三と不要、無能、追放と言われつづけること二日後。

 とうとう俺は屋敷を追い出された。

 右手には一ヶ月分の食料が買える程度の硬貨ディラと、左手には木剣。

 木剣だけ持たされて、どうしろと?  

 これで何と戦えっていうんだ。常識か? 外れスキルを与えた女神か?

 それとも――。



「……婚約も解消ってなりゃ、助けてももらえないだろうしな。はあ……」



 許嫁であるマグノリアだけが頼りだった。しかし、ユースティス家の手がすでに回っているだろう。

 彼女は頼れない。



「これからどうすっかなあ……」



 どうしてこうなった。――なんて、そんなこと、ムダだとわかっていても考えてしまう。

 俺が外れスキルを引いたから。

 結局、そこに帰結してしまうのだから考えたって仕方がない。



 起きてしまったことは、取り返しつかないのだから。



「金って、どうやって稼ぐんだろ」



 剣術のことばかり叩き込まれてきたから、まったくわからない。

 とりあえず、街へ行こう。

 一抹の不安を抱えて、俺は街につづく坂を降っていった。

 

 

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