1-3 勇者再来②
さて、中央集権の第一歩は徴税だ。まずは王室の直轄領の徴税を担当している地頭どもを集めて、徴税権を取り上げる。素直な奴はそのまま使ってやってもいいが、地頭なんて仕事は、中抜きか賄賂がないと割に合わない仕事だ。何か仕掛けてくるに違いない。
「陛下、地頭が集まったようです」
衛兵に連れられて謁見の間へ急ぐ。さてどんな奴らなのか、俺は地頭どもの前に出た。
「あー……」
思わず心の声が漏れた。なんか、魔物みたいなやつもいるな。魔族の俺が言うのもなんだが、ガラが悪いな。
行儀よく座って殊勝な態度を取っているが、腹の中はどうだか。俺は地頭どもに宣言した。
「あー、皆のもの、これまで徴税の役務、ご苦労であった! これからは王国の徴税官が貴様らの代わりに徴税を行う、引き続き徴税の役務に付きたいものは徴税官試験を受けよ! 」
(いいのですか魔王様! そんなこと言って)
(受けても全員落とすに決まっているだろう。さて、どう出るか見ものだな。)
「よろしいですか王様」
うわ! すごい強面だな……もうバケモノだろこいつ、と思いながらも発言の許可を与える。
「ワシは地頭衆の頭をしております者です。今回の件、ワシらは構わんのですが、なに分ずっとこの仕事をしているもので、部下も大勢います。もし他の徴税官が出入りするようになったら、うちの若い衆が間違った行動を起こすかもしれません。例えば……その徴税官とかいう余所者を簀巻きにして町の外に埋める等……ですね」
全員がニヤニヤ笑い出す。王に向かって脅しとは、なんとも舐められたものだ、デクめ、こんな奴らをのさばらせておいたのか。頭が痛くなってきた。
「いかがでしょう、こちらも折衷案を用意いたしますので、明日またワシと話し合いをしていただけないでしょうか。お互いにとってより良い形にしましょう。」
お互いにとって良い形だと? 寝言も良いところだ。しかし交渉をする頭はあるのか。いいだろう。
「よかろう、また明日、この時間に参れ」
「ありがとうございます。」
そういうと地頭どもは帰って行った、余裕の笑みを浮かべながら。しかし終始馬鹿にした態度だったな。
(魔王様、いかがいたしましょうか)
(相手の出方次第だな。念のため暗殺ができるものを手配しておくか。)
しかしあの余裕な面は気になるな、交渉に自信があるのか。何にせよあの地頭どもは排除せねば……
「ご報告します! 城の前に野党が! およそ50人! 」
なんだと! 城に野党? ……ああ、なるほど、地頭どもの嫌がらせというわけか。やはり相当舐められているようだ、ここの王は。
俺は命令を下した。
「城の衛兵どもを集めろ、懲らしめてやる」
この輩ども、ここで潰しておかねば、ますます調子に乗るだろう。
「ワシが指揮をする! 直ちに集まれ! 」
——城門前、柄の悪い輩がニヤニヤしながらこちらを見ている。ここで脅しをかけて明日の交渉を有利に進めるつもりか。なかなか大胆なことをするな、地頭ども。
しかしここで全員捕まえさせてもらう!
「全員捕縛せよ! 進め! 」
俺の号令でゆっくりと進んでいく兵士たち、相手はこん棒で武装した野党だ。衛兵と野党では装備が違い過ぎる。これは楽勝だろう。とりあえず全員捕まえて首謀者を吐かせれば地頭は始末できる。力任せの戦略、所詮はヤクザ者ということか。
まあ、この程度の人数は……あれ? なんだかずいぶん手間取っているな、衛兵たちは。
というか、負けてないか? どいつもこいつも棍棒でボコボコにされている……。
なんで? 装備はこちらの方が上なのに……、そうか、実践経験が足りないのか。これは衛兵を鍛え直さなければ! ……ってあれ? なんか味方が逃げようとしている?
(魔王様、全員こっちに逃げてきます。)
何を冷静に報告しているのだ! どういうことだ? ここの兵士は輩より弱いのか? 俺は走って城に入っていく兵士の背中に叫ぶ。
「まて! 逃げるな! おい! 戦え! ……ええええ! 」
なんと門が閉まっていく……。王様がいるのだぞ! あいつら完全に逃げやがった!
「おい! あそこに王様がいやがるぞ! 逆らえないように少し痛めつけてやりな! 」
見つかった。輩どもが走ってくる……。足速いなあ……、あ、これやばいな。思わず剣を抜きはしたが、こちらは一人きり、しかもこの体では攻撃魔法も使えない。どうすれば⁉ 使える魔法といえば……こうなれば!
「ハサスッ! 」
うお! 意外と多く煙が出た! この煙で奴ら混乱をしている! ここだ!
「デドリム! 」
この幻惑魔法でしばらく眠ってもらう。この城の者には魔法が使えないことにしていたが、仕方あるまい。
オレはかろうじて立ち上がっているものを剣で軽く叩き眠らせた。魔法耐性がない人間は幻惑魔法に掛かるのも早い。
……それよりも! さっき城の門を閉めたやつを八つ裂きにしてやる! 絶対に許さない! 絶対にだ!
俺は城に向かって叫ぶ。
「開けろ! このやろう! 門を閉めたやつをズタボロにしてやる! 」
聞こえないのか、兵どもの反応が悪い。
「王様が、何か仰っている! 」
「ばか、お前、勝鬨だ! おおおおおおお! 」
ああ? なんかはじまったよ! 畜生! 俺は叫ぶ。
「違うって! 開けろ! このやろう! 」
「おおおおおおおおお! 」
誰も王の言葉を聞かない。俺はまた叫んだ。
「違うって! 聞け! おい! 」
「王様がたった1人で大勢やっつけた! 勇者だ! 勇者の再来だ! 」
「勇者! 勇者! 勇者! 」
巻き起こる勇者の大合唱で俺の文句はかき消され、叫び疲れたオレはもうどうでも良くなってしまった。
この事件後、地頭衆は反逆者として処罰され、王室直轄地には徴税官が設置された。この日の出来事以降、勇者の数々の伝説は、勇者唄の続きとして吟遊詩人により全土に広がり、勇者再来伝説として語り継がれることとなる。
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