ドア、開けて。愛してるよ。


 ストーカーを殺してしまいました。愛を切々と語る男が気色悪くて堪りませんでした。何故なら、彼と私は初対面だったのですから。


『結衣、愛してる。新居を用意したんだ。一緒に来て欲しい』


 そう言って私の手首を掴んだ男。私は背筋が粟立ちました。このまま連れ去られたら、どんな目にあうかと考えただけでも恐ろしいです。私は必死に抵抗しました。抵抗の末に、男を突き飛ばしました。男は不運にも岩に後頭部を強く打ち付け、動かなくなりました。死んだ、殺してしまったのです。私は血の気が引いてゆくのを感じました。私は急いで死体を車に乗せて、ここから一番近い山に向かい、土を掘って穴の中に死体を埋めてしまいました。

 それからは、恐怖の日々でした。いつこのことがバレるか分かりません。しかし、何日経っても報道されることはありませんでした。私は徐々に恐怖が薄れてきました。

 以前の日常を取り戻そうとしていたある日のこと。街に不穏な噂が流れてきました。不審者が夜な夜な歩き回っているといいます。何をするわけではないのですが、動きが不可解で気持ちが悪いのだという話です。それは、夜は出歩かない方がいいという警告でした。私はそれに従いました。ストーカーが現れたのも夜だったからです。夜は用心するに越したことはないのです。






 ピンポーン、という音が響きました。こんな夜に誰でしょう。疑問に思いながらインターホンを確認して、私は声を失いました。そこには、化け物がいたからです。皮膚は腐りかけ、眼球がぐらぐらと揺れています。しかし一番恐ろしかったのは、この化け物がストーカーの男の面影を残していたことでした。


「……オア……アエエ…………。アイイ、エウオ……」


 化け物が何かを言っているが、分かりません。分かりたくもありませんが。化け物はドアを何度も叩いています。私は震える指で警察に電話をかけました。プルルルル、という電話の音。脳裏にはあの化け物の笑顔がこびりついていました。


Fin.

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