僕だけのお姉ちゃん

 愚かなくらいに優しいお姉ちゃん。僕は貴女の全てが欲しくて堪らない。


「夢來はいい子ね」


 両親はそう言って僕を可愛がる。僕は悪いことなんて何一つしない、『いい子』だ。勉強だってちゃんとやるし、スポーツだって一生懸命。少し甘えたなところはあるが、そこも愛嬌だ。僕、若菜 夢來はそういう人間だ。


「お姉ちゃんも見習わないとね」

「……う、うん」


 母親にそう言われたお姉ちゃんはぎこちなく返事をして、眉を下げて困ったように笑う。ああ、とっても可愛い。もっと困らせたくなっちゃう僕のお姉ちゃん。

 お姉ちゃんはとても不器用な人だ。勉強だってスポーツだって一生懸命やっているのに、それが実を結ばない。両親に僕と比べられているのを、真面目なお姉ちゃんはいつも悩んでは陰で泣いている。そういうことがあって、お姉ちゃんは僕のことが苦手なんだろうなって思うけれどそんな気持ちを隠して僕に優しくしてくれるのだから、本当に優しくていいお姉ちゃんなんだろう。だから僕は、その優しさに付け込む。


「お姉ちゃん……」


 僕は夜になるといつもお姉ちゃんの部屋をノックして、お姉ちゃんを呼ぶ。お姉ちゃんはドアを開けて、僕を迎えてくれる。


「こんな時間にどうしたの?」


 分かっているくせに。パジャマ姿のお姉ちゃんは困ったような顔で聞いてくる。これもいつものことだ。僕は上目使いで、眉を下げて今にも泣きそうな顔でお姉ちゃんを見つめる。


「今日、お友達と怖いビデオを見て眠れなくなっちゃって……。お姉ちゃん、一緒に寝てもいい……?」


 僕は何かと理由をつけてお姉ちゃんと一緒に寝ようとする。お姉ちゃんは困った顔で微笑んだ。


「夢來は怖がりさんね」


 お姉ちゃんは掛け布団を開けて、僕を迎えてくれる。お姉ちゃんのベッドは当然一人用で、僕とお姉ちゃんが寝ると少し狭い。お姉ちゃんは気を使ってなるべく僕と距離を開けて寝るけれど、そんなの僕が許さない。僕は寝ぼけたふりをしてお姉ちゃんに抱きつく。びくりと震えたお姉ちゃんは逃げるように背を向けてしまうけれど、僕はそれでもよかった。お姉ちゃんを抱きしめて、首元に擦り寄ってお姉ちゃんを感じる。お姉ちゃんの匂い。柔らかな肌。お姉ちゃんの全てが僕を甘く刺激して止まない。僕の寝息がお姉ちゃんの首にかかって、その度に身体を強ばらせるお姉ちゃん。僕の腕を振りほどこうとするけれどそんなの無駄だよ。何度だって抱きついてあげるから。


Fin.

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