一重千重は体重計に乗らない

水原麻以

第1話


重力を操る少女がいる。もしそんな能力があったら本人の活躍とか日常とかいろいろ大変な事になっている。

その名は一重千重。

読み方は、ひとしげちえ。

直接触れている2つの物体間の重力を操ることが出来る。

例えば、車を持ち上げるなら地球(地面)に触れていないとならない。

質量自体は無視出来ないので、重いものを振り回すと遠心力が働く。

同時に1つの重力しか操れない。

例えば、右手で触った物と左手で触った物の間に強い重力を発生させた場合、それぞれの物体には地球との重力も普通に働く。

このように一重千重はとんでもないチートスキルを持っている。彼女は定石通りトラックに轢かれて死んだ。だから転生の神に二度とそのような辛い思いをしたくないと願ったのだ。神はその願いを聞き入れ、トラックに負けない能力を授けたのち、現実世界へ転生させてくれた。

「えっ、異世界じゃダメなんですか?」

一重千重の疑問に神が答えた。「お前の魂は地球の重力に引かれておるからじゃ」

誰が巧い事を言えと言った。



『そう言う事か』

「もしかしなくても、私たちの魂は私と同じ異世界の者だから地球と比べて重力に引かれてるのかな?」

『そうじゃ』

「えっ、神は地球と異世界の違いをわかっているんだ?」

『ええ、そうじゃよ。異世界と呼べる者はこの中に1人と限らん。なぜなら、異世界で何が起こるかわからんのじゃ。何より異世界の者は、地球とは違う異世界に行くことになるからな』

「つまり、自分が生きてきた地球の記憶を持っているという事なのか」

『そうじゃな。地球とは違う異世界に行った時に何が起こるか分からんし、そこで生き返る可能性も大いにあるからのう』

「どういう事です?」

『お前がこの世界に来てから、お前が言ってたことじゃがな、死ぬと永遠では無いがその記憶が私の記憶に乗っ取られるらしいのじゃ。死んだ後も何も記憶を残すことはお前も神様として可能不可能を問わずできるとの事で、お前に魂を渡したのじゃ』

「そういう事か」

神から魂を取り戻した一重千重は「何だか神様って大変だなぁ~」そう思いつつも、何かやりたい事でもあるのかな~と思った。

それから一重千重は、その異世界の人間に話した。「私が地球に連れて行ってもらったのは本当に良い事で、何かこの世界の事情について知りたい事とか、色々と教えて欲しい。だから、異世界の人間と話すときは、神様の声が聞こえるかなと私は思うけど、そういうのが聞けないか? 多分、神様の声なら理解できると思うから」と。

それから神様は、どういう訳か一重千重の魂を持つ者を私の世界に連れて来ていた。

正直困っていた。

一重千重は、自分の魂をこの世界に送るためにいろんな方法を試したのである。

その方法とは、この世界に連れてきた魂を、全て神の元に返す事だ。

その時、私を呼ぶというだけだが、それは一重千重と同じ様に神の元に連れてきてもらうことが出来る。

その方法を私に教えてくれたのは神様だ。

一重千重の魂を取り返した時、私は神様に初めて会った。

この世界にも、神はいる。存在は実在し、神様なのだ。

だから一重千重の魂を、神の元に返し、また神の元に自分の魂を持って帰るという魂を再び取り返すという、まさに神からの命令である事もある。

この世界の神。この世界で生きて、この世界に貢献し、この世界で死んでいき、この世界から出て、元いた世界へと戻る事もないだろう。

それでも自分からその事を言い出すなんてなんだか変だなと思ったが、なんとなく納得出来た。

「そうか、分かった。その魂を神に返そう」


そういうわけで、一重千重は体重計に乗らない存在になった。

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一重千重は体重計に乗らない 水原麻以 @maimizuhara

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