第6話 赤い石

「ここがアレスの城じゃな。意外と小綺麗じゃないか」



「城というほど大層なお店ではないですけどね」



「そういうではない、アレスの年齢でこれだけの店舗を持てるなんて凄いじゃないか」



「確かに、そうですが……」



「おお、なんと言うか色んな物があるんじゃな」



 シャルは店内を見渡す。冒険者用の剣から、防具、不思議な道具から装飾品、骨董品までどれも年代も価値もバラバラに置いてある。一見、乱雑に置いてあるように見えたが、シャルはそれがどことなく統一感のようなものを感じた。



「興味をもった物を仕入れてしまうので、どんどん増えてしまいまって」



 アレスは照れたように頭をかく。



「そうなんじゃな。ほー、これは何なのじゃ?」



 シャルは冒険者用の剣の側に置いてあった、筒状の物を手に取った。



「それはトーチです。冒険者用の道具ですね。灯用のアイテムです。この筒状の中に弱い光魔法が入っていて、このレンズ部分から光を出します。ちょっと、貸して見てください。この下の蓋部分を回すと、ほら」



 アレスはシャルから、筒状の物を受け取ると下部分をぐるっと回した。すると下の蓋が外れ、中から紙が出ててくる。



「この紙には光魔法のスペルが書いてあります。筒は魔法が伝わりやすい魔導体の木材でできているので、筒を持って魔力を流すとつけたり、消したりできる仕組みになってます。やってみますか?」



「やってみるのじゃ!」



 アレスはトーチをシャルに渡す。

 シャルはトーチを手に取るとグッと魔力を流し込むと筒の中にあるスペルが魔力を感知して光が灯った。



「おお、これは便利じゃのう。他にもこういった、面白い物をあるのか?」



「そうですね。これなんてどうですか?」



 アレスは棚を漁ると木箱を取り出し、そこから金貨を一枚シャルに渡した。



「これは今日教えて貰った金貨というやつか?実物は初めて見るのう」



「そうです。これはこの国が発行していて、一番流通しているアーロン金貨です。この国を建国したダヴィズ王の守護騎士の姿が写っています。表はこの国の紋章と、象徴的な模様である獅子の模様が入ってます。騎士の持っている剣何か違和感がありませんか?」



「んー……この剣、絵柄じゃなくて外れるのじゃ!」



 シャルはコインから針ほどの大きさの剣を取り出した。



「よく見るとコインの隙間があるので、探してみてください、そこにその剣を刺すと」



 剣をコインに刺すと表の面の蓋がスライドして下から薔薇模様の絵柄が現れた。



「コインの絵柄が変わったのじゃ!魔法なのか?」



「いえ魔法は使っておりません。コインを削り型を作り、カラクリのみで動いています。これは子供達のお遊び用として使われていたようです」



「こんな凄いものが、お遊び用?作った人は凄い偏屈な人ね」



「相当変わり者なのでしょう。こういったコインにはあまり価値はありませんが、趣味で集めているのです」



「ほう、そうなんじゃな」



 コインを熱心に見ていたシャルはもっと面白い物がないか店内を見渡す。



「これは、なんじゃ?」



 すると、シャルは台の上に立てかけてあった、つい最近買ったばかりのイーグルの贋作の剣を見つけ指刺した。



「これはつい最近、冒険者から買い取ったイーグルの剣ですね。残念ながらイーグルの作品ではなさそうですが、装飾は立派で贋作といえども、修繕をすれば高く売れそうなので買取りました。見てみますか?」



「みるのじゃ!ほー、こんなに精巧な剣なかなかお目にかかれたことはないのう、わしはこういった剣は疎いのじゃが。ほれリリアンこの剣なかなか凄いのじゃ」



 シャルが贋作の剣をリリアンを見せようとした時、それは起きた。



 剣の刃と装飾から強く蒼色に発光しだしたのだ。



「アレス!?何か剣が発光したのじゃ!これもさっき言ったカラクリ?みたいなものなのか?」



 急に発光しだした剣にシャルは慌てる。



「いえ、そういった要素はこの剣にはなかったはずですが……」



「シャル様!その剣から離れてください!」



 リリアンがシャルからその剣をはたき落とそうとした瞬間、シャルが持っている贋作の剣がボロボロと黒いチリとなって崩れ始めた。

あっという間に剣の形が保てないほど崩れ落ち、チリの中から拳ほどの大きさの赤黒い石がシャルの手のひらに現れた。



「あ、アレスすまぬのじゃ……剣を壊してしまった」



 シャルは申し訳なさそうな声でそういうと、石をアレスに差し出した。



「いえ、私もこの剣にこんなギミックがあったと思いませんでした」



 アレスは剣から出てきた赤い石を手に取る。



「その石なんなのか分かるのじゃ?」



「……宝石では無さそうです。かといって何かの化石でもない。水晶?いや違う。これは何でしょう?」



「アレスにも、分からぬものなのか」



「すみません。この形状は初めて見る形で、今度鉱物に詳しい専門家がいるのでその人に聞いて見たいと思います」



「うむ、そうか。分かったらまた、来た時でも教えてほしいのじゃ。その石……少し気になっての」



 またと聞いてリリアンは渋い顔をする。



「また、この店に来るんですか?」



「いいじゃないか。面白い商品もいっぱいあるし、こやつも中々面白い奴じゃからの」



 シャルはアレスの事を気に入った様子だったが、リリアンは先程の剣のこともあってかアレスの印象が最悪だった。



「うむ、今日はありがとうなのじゃ。この街を色々知れて楽しかったのじゃ」



「いえ、こちらこそ有意義な時間でした」



 フードの少女はアレスに手を差し出すと握手をした。



「まだこの街にしばらくいる予定なのでな、街にいる間はまたこのお店によろうと思うのじゃ」



「そうですか、では次はお客様として」



「そうするのじゃ!それではのう。リリアン帰るのじゃ」



 リリアンはシャルのその言葉を聞いてホッとした顔をするとアレスに向かって見事な騎士の礼をする。礼が終わるとシャルと一緒に店を出た。



「はぁ、何だか濃い一日だったな」



 シャル達がいなくなって、少し寂しげになった店内を見つめる。



「よし、今日はお店を閉めてゆっくりしよう」



 グッと背を伸ばすと、アレスも店を出た。



 そんなアレス達の後ろでは赤い色の宝玉が鈍く塒を巻いて発光していた。

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