ファンレター
にじさめ二八
ファンレター
株式会社スターアーツプロダクション
マネジメント部 第一マネジメントグループ
ショコラDEプリン担当マネージャー
吉嶋様
いつもお世話になっております。
先日のビックサイトで行われた握手会はお疲れ様でした。
私も当日会場に出向いて現地を拝見させていただきましたが、昨年よりも盛況のようでしたので安心しました。
というのも、ファンの入りがぐっと落ち込むことを想定していたからです。
理由は言わずもがな、握手会の一週間前に突如発表されたイチゴちゃんのグループ卒業発表です。
突然の卒業発表についてですが、正直なところ今のご時世におけるアイドルの卒業、もとい卒業という名の活動終了はさほど珍しくありません。
ただ、イチゴちゃんはショコプリの中でも非常に人気の高いメンバーであり、突然の卒業は多くのショコプリファンをがっかりさせてしまったでしょう。その影響は当然、握手会に響くものと心配しておりました。
吉嶋様におかれましても大変ご苦労されたのではないかと思います。
私としましても何かお力になれることはないかと思い、あれこれと知恵を絞って企画を構想してみました。
ですが何度考えを巡らせても、私にできることは残された四人のメンバーと吉嶋様のことを陰ながら応援することだけでした。
誠に申し訳ありません。
ところで、一点気がかりなことがございます。
なぜイチゴちゃんの卒業発表をされたのでしょうか。
しかも記者会見では吉嶋様と御社の社長から報告。そして頭を下げておりました。
彼女の卒業については、頭を下げて謝らなくてはいけないようなことではなかったはずです。
それについては、彼女らの側にずっといた吉嶋様が一番理解されていると思うのですが。
アイドルの、突然の卒業発表というものは、時として酷い誤解を生み出すことになるのは想像に難くないかと思います。似たように突然の卒業を発表したアイドルたちの事例を見ても、それは明白です。
男ができたから、結婚するから、規約違反を犯したから、嫌気がさしたから、十分稼いだからなどと、おおよそイメージの良くない想像をかき立てて、彼女に対する心象を悪くするものです。
イチゴちゃんの活動終了は決してそんな理由ではない。そのことは吉嶋様もよくご存知ではないでしょうか。
そもそもが、なぜ“卒業”としたのですか?
卒業という言葉を使うのであれば、本来はイチゴちゃん本人が世間に向けてその旨を報告しなければならないはずです。
しかし、記者会見にはあなたと社長が頭を下げる形で報告。これではニュースを見た誰もが不審に思うだけです。
あの場でのベストな選択は、イチゴちゃんの“活動終了”を残りのメンバー四人から明るくスマートに報告させることでした。そうしなければショコプリではなく、イチゴちゃんのファンだった人達がただただ納得できないだけの不可思議な記者会見として映るだけです。
いえ、そもそも記者会見などを開くことはせずに、体調不良による療養などの理由で報告するだけで済んだはずです。
それをあなた方は、彼女を自分たちの預かりから抹消することで最終的な保身、責任逃れを図った。はっきり言ってこれは、夢ある少女達に対する裏切り行為だとも言えます。
純真無垢な彼女達の身を預かり、彼女達が描く夢を商材としている立場の大人ならば、決して手放さず、最後まできちんと面倒を見ることが最低限の務めです。
それなのに記者会見を強引に開き、本人不在のまま卒業を発表するなど、甚だ遺憾であるとしか言いようがありません。
イチゴちゃんの所在が分からないのならば、なぜ探す努力をしなかったのでしょうか。
彼女は最後までアイドルを辞めたくないと言っていました。本当にファンのことを想い、握手会も楽しみにしていたと泣きながら訴えていました。
老若男女問わず、無職だろうと太っていようと、目を合わせて会話ができない人だろうと手の汚い人だろうと、自分を応援してくれるファンには真っ直ぐ向き合いたいのだと、最後の最後までずっと訴えていました。
そんな彼女を見て、私はイチゴちゃんこそ真のアイドルだ、応援するたびにくだらない理由で卒業などをしていった他のアイドルとは違うのだ、と。
そう思ったからこそ、あなた方の記者会見にひどく憤りを感じたので、こうしてメールをお送りさせていただいた次第です。
このメールを見て後悔なさっても、イチゴちゃんのいたショコプリは帰ってきません。
ですが、どうかこれからは、残されたショコプリのメンバー達を大切にしてあげてください。
私はこれからもショコプリを応援していきたいと思っています。
(二〇二X年六月六日 “ショコラDEプリンメンバー誘拐殺人事件”の犯人から送られてきたダイレクトメール)
<了>
ファンレター にじさめ二八 @nijisame_renga
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます