短編ホラー集

プリティじぃじ

旧友T

会社の帰り道、昔の友人の武田と言う男からラインが入った。


懐かしい人物からの連絡に戸惑いつつも、要件を確認すると、

一緒に久しぶりに心霊スポットに行かないかと言う内容だった。


「そうか、もうそんな時期か。」


気付けば仕事に忙殺される毎日で、季節感などとっくにどこかに吹き飛んでいた。


「たまにはあの頃みたいに、はしゃいぐのも良いよな。」


場所と日時と時間は向こうが選んでくれるらしい。

H県にある山奥の廃墟と言うのが今回行く心霊スポットの場所だった。


「待ち合わせ場所は…」


その山の麓の公園。T公園と言うらしい。


久しぶりの旧友の再会に少しわくわくしながら、了承の旨のラインを返し、その日は自宅に帰るのだった。


そして当日。


待ち合わせ時間は0時。


だが俺は少し遅れて0時5分頃に到着。しかし武田が来ている様子は無い。


「おいおい、遅れて来た俺が言うのも何だが、あいつまだ来てないのかよ。」


あたりを見渡すと、人の気一つ無い。

代わりに寂れた遊具があり、滑り台風に吹かれたブランコはキィキィと音を立てて揺れている。なんだか少し不気味に感じた。


すこし怖くなって武田にラインをしてみるともうすぐ着くとの事だった。


「早くこいってんだ全く」


そう思いながら、しばらくまっていると人影が見えた。


やっときたか、と思いそちらを振り向くと。


なんだか様子がおかしい。黒いナニかが。遠くからのそりのそりのそりと

歩いてくるのだ。


俺は本能的に危険を感じ、木陰に隠れた。

それは近くまで来ると小さな呻き声が聞こえてきた。


心臓の音がやけに大きく感じる。俺は声が出ない様に口元に手を当てながら黒いナニかが去っていくのを待った。


その黒いナニかは公園を歩き回っている。


10分、20分、あるいは1時間か。もっと長い時間待った気がする。

それは、一行に去る気配が無い。


もう、走って逃げようそう思い俺は逃げようとした。

その時だった。震えた足がもつれて躓いてしまった。

静まり帰った公園に草の音が響く。


黒いナニかがこちらを向き、徐々に、確実に近づいてきている。


もう、逃げる為の思考は消え、頭の中は真っ白になっていた。


1歩、2歩とそれが近づいてくる度、うめき声の様音は大きくなっていく。


そして気配は草むらの前まで来た。


(あと一歩、どうする?なんでこんな事になった?走って逃げないと

。母さんに別れの挨拶をすませておけば。早く立て。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

死ぬのは嫌だ。)


目をぎゅっと瞑ったその時だった。


カーーーーーン……。カーーーーーーン……。


1時の針を刺した公園の時計がなった。


すると、黒いナニかの気配は消えていた。


俺はその場に座りこみ茫然としていた。


「……助かった、のか?」


そう口に出した途端、安堵から目から大粒の涙が溢れた。


何もいない公園を後にし、急いで自宅に帰った。


_____後日。


あの公園を調べてみると、殺人鬼の幽霊が出ると言う話を聞いた。

生前は時間に厳しく、時間を守らない人間によく怒鳴っていたと言う。


そして待ち合わせに来なかった武田はにラインでなぜ来なかったかを問い詰めた。が、既読はつかず何の返事もなかった。


訳わかんないなと思いながらも俺は日常に戻って、その事を忘れてしまった頃に武田かラインの返事が来た。

漸くあの時来なかった理由を問いただせる。苦情を言わなきゃ気が済まない。


そう思い返答を確認する為。ラインを開いた。





「なんで死んで無いんだよ。」



その返事を最後に武田は俺の目の前に姿を見せる事は無かった。




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