第131話 戦艦の魂
1945年6月6日 午後4時
砲戦部隊に配備されている戦艦は第1戦隊、第2戦隊に配備されている7隻だけではなかった。第10戦隊1番艦の「陸奥」もまた戦艦である。
2年にも及ぶ大改装によって主砲の門数が半減し、砲戦時の戦力的な価値は低くなってしまった「陸奥」であったが、その戦艦としてのプライドは一ミリも失われておらず、乗員に士気も昼間の航空戦に続いて極めて旺盛であった。
「艦長より砲術。目標。敵巡洋艦1番艦!」
「目標。敵巡洋艦1番艦。宜候!」
「目標。敵巡洋艦1番艦。測的始め!」
「陸奥」艦長三好輝彦大佐の指示に砲術長の大原敏夫中佐が即座に復唱し、発令所にも命令が飛んだ。
「相手取る艦が巡洋艦だからといって油断することは出来ぬな」
砲術と発令所の測的を待っている間に三好は呟いた。「陸奥」が装備している40センチ主砲の破壊力は凄まじく、1、2発命中すれば敵巡洋艦を廃艦に変えることは確実であったが、門数的には敵巡洋艦の方が遙かに優勢なのだ。
相手が格下だからといって油断することは全く出来なかった。
1分後・・・
「目標敵巡洋艦1番艦。測的よし!」
「方位盤よし!」
「主砲、射撃準備よし!」
三好が詰めている射撃指揮所に報告が上げられる。「陸奥」に配属されている乗員は他艦に比べてベテランの割合が比較的多いため、砲戦開始直前にも関わらず、慌てている者は一人もいなかった。
「陸奥」がまだ戦艦としても健在であるという意志が「陸奥」の全乗員から感じることが出来た。
「撃ち方始め!」
三好が大音声で下令した。
主砲発射を知らせるブザーが鳴り響き、左舷側に巨大な火焔がほとばしり、巨大な砲声が轟く。発射の反動を受けた「陸奥」の巨体が右舷側に大きく傾く。
「陸奥」はこの台湾沖の海面で生涯発の実戦での主砲発射を敢行したのだ。
「だんちゃーくー!」
ストップウォッチとにらめっこをしていた水兵が報告し、目標の敵巡洋艦1番艦の付近に2本の巨大な水柱が奔騰する。
砲術を志している者なら初弾命中が理想だが、残念ながら初弾命中はなかった。敵巡洋艦1番艦はこれまでと変わらず航行を続けている。
「陸奥」の第1射が弾着した直後、敵1番艦の艦上に火災炎が閃いた。敵1番艦も「陸奥」を目標に射撃を開始したのだろう。
「陸奥」が第2射を放つよりも、敵巡洋艦1番艦の第2射のほうが早かった。敵巡洋艦の発射速度は非常に早い、約15秒に一射というペースだ。
遅れて「陸奥」が第2射を放ち、敵巡洋艦1番艦の手前に着弾する。
直撃弾はない。全弾が海面に水柱を噴き上げただけだ。
敵巡洋艦からの射撃は第3射から命中弾が出始めた。
「陸奥」の上甲板や後部で直撃弾が炸裂し、小爆発が発生する。被弾した場所から大量の破片が噴き上がり、後部に装備されている長10センチ砲連装砲を爆砕する。
1発当たりの威力は大して大きなものではない。せいぜい艦の非装甲部や高角砲が粉砕されるくらいだ。
「陸奥」が第3射を放つ。
「目標狭叉!」
測的長からの歓声混じりの報告が射撃指揮所に上げられる。「陸奥」は第3射にして敵巡洋艦1番艦を捉えるとことに成功したのだ。
「次より斉射! 発令所しっかり狙えよ!」
三好は激励し、それに答えるかのように「陸奥」が第1斉射を放った。
大和型の登場以前は世界最大の艦砲だった40センチ主砲4門が一斉に火を噴き、衝撃が艦全体を大きく揺るがす。
そうしている間にも敵弾が次々に着弾する。敵巡洋艦の主砲弾によって「陸奥」が致命的な損害を受けて爆沈するといったことはないが、艦は一寸刻みに徐々に破壊される。
「第1斉射、弾着今!」
主砲発射から約40秒後、射撃指揮所に報告が上がる。直後、敵巡洋艦1番艦の艦上に巨大な火柱が噴き上がり、無数の破片が空中高く舞い上がった。
「よーし!」
「やった!」
三好と大原が同時に歓声を上げる。「陸奥」は通算4回の砲撃で直撃弾を得ることに成功したのだ。
敵巡洋艦1番艦は激しく炎上しており、その主砲から新たな発射炎がほとばしることはなく、海上に浮かんでいる巨大な松明と化している。
速力も大幅に低下しており、航行不能寸前の状態だ。敵巡洋艦1番艦が戦闘・航行不能になったのは誰の目から見ても明らかであった。
「陸奥」の40センチ砲弾が敵巡洋艦1番艦を文字通り一撃で粉砕したのだ。
行き足が衰えた敵巡洋艦1番艦を他の巡洋艦が追い越す。「陸奥」の主砲の威力を目の当たりにしたのにも関わらず、「陸奥」との砲戦を継続するつもりなのであろう。
「艦長より砲術。目標。敵巡洋艦2番艦に変更!」
「目標変更。敵巡洋艦2番艦。宜候!」
「目標。敵巡洋艦2番艦。測的始め!」
三好が命令を伝え、測的のため「陸奥」の主砲がしばし沈黙する。
そして・・・
「目標敵巡洋艦2番艦。測的よし!」
「方位盤よし!」
「主砲、射撃準備よし!」
主砲発射準備完了を知らせる報告が射撃指揮所に飛び込んでくる。
「撃ち方始め――!」
「陸奥」は敵巡洋艦2番艦に対して第1射(最初から数えて通算5回目の射撃)を放ち、強烈な砲声が轟き、発射の反動が5
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