最終章 陸海協調ここに極まれり

第118話 試練の始まり

1945年6月6日 朝


 この日――日米太平洋戦争決着の日、最初に空襲を受けたのは日本軍の第1機動艦隊だった。時刻はまだ午前の6時を回ったところであったが、米軍の索敵機に明朝に発見された1機艦は早くも試練の時を迎えようとしていたのだった。


 昨日の航空戦を無傷で生き残った8隻の母艦と、夜通しの決死の復旧作業により、飛行甲板を使用可能な状態まで修理した準装甲空母「山城」からは次々に迎撃用の零戦33型が出撃しており、未だに健在な台湾各地(主に台北・台中の飛行場)に展開している第12航空艦隊も援軍を送る旨を1機艦司令部に通達していた。


 対する米海軍の攻撃隊は25機程度の編隊が10隊、総勢250機。どうやら今日は敵の主力空母群のみではなく、存在が予想されていた護衛空母部隊の搭載機も戦闘に投入されているのであろう。


 やがて、1機艦の上空に展開していた零戦33型と攻撃隊の護衛に付いていたF6Fとの間で制空権を賭けた空戦が始まり、台湾の空に多数の飛行機雲が現出し始めた。


 母艦が近くを航行しているため、燃料・弾薬切れという事態を全く心配する必要のない零戦の搭乗員達はそれぞれの愛機を存分に操り、20ミリ機銃を容赦なくぶっぱなした。


 その結果、敵250機中70機前後のF6F・ヘルダイバーを撃墜もしくは撃破したものの、難を逃れた80機程度のヘルダイバーが輪形陣に向けて一斉に突進を開始した。


 輪形陣の前方に多数の発射炎が閃き、空中に次々に爆煙が湧き出した。輪形陣の外郭に展開していた第9駆逐隊「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」と第1、2防空駆逐隊の秋月型駆逐艦が一斉に射撃を開始したのだ。


 秋月型駆逐艦が1隻当たり8門装備された長10センチ砲を振りかざし、高度数千メートルの高空に向かって次々に10センチ砲弾を秒速980メートルの速さで撃ち出し、旧式駆逐艦で固められている第9駆逐隊も負けじと高角砲を撃ちまくる。


 旗艦「大鳳」の艦橋から確認出来るだけでも6機のヘルダイバーが撃墜され、3~4機のヘルダイバーが爆弾を捨てて戦場から逃げるように離脱していった。


 秋月型の対空砲火の激しさを見たヘルダイバーの搭乗員達は秋月型の頭上を敬遠し、第9駆逐隊の頭上から輪形陣の内部に侵入を開始する。


 次の瞬間、戦艦の主砲弾発射の衝撃と爆音が1機艦が展開している海面をずっぽりと包み込んだ。


 第9戦隊の「陸奥」、第1戦隊の「大和」「武蔵」「長門」、第2戦隊の「金剛」「榛名」「比叡」「霧島」がヘルダイバーを一網打尽にすべく三式弾を発射したのだ。


 8艦合計62発の三式弾が打ち出され、一斉にヘルダイバー群が飛行している高度付近で炸裂し、内4発が有効弾となった。


 刹那、上空に凄まじい光量の閃光が光り、被弾・損傷した機体が10機以上よろめきながら高度を大幅に落とし、一部の機体は損傷に耐えきることが出来ずに台湾西方の海面に静かに墜落していった。


 三式弾の射撃機会は基本的に1回の空襲に対して1回だ。次の瞬間にはヘルダイバー群は三式弾の脅威を無効化するべく一斉に散開を開始している。


 三式弾による一斉射撃と入れ替わるようにして、各母艦の防御に付いている第1防空戦隊の「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」、第2防空戦隊の「阿賀野」「能代」「矢矧」「酒匂」の8隻の防空巡洋艦が艦上を燦めかせ、一拍遅れて第9戦隊所属で日本海軍最新鋭巡洋艦の「大淀」も砲門を開いた。


「敵3機撃墜!」


「敵1機撃墜、また1機撃墜!」


 各艦の艦橋に次々に報告が飛び込み、多数の高角砲弾が続け様にヘルダイバーの間近で炸裂し、ヘルダイバーはその数を徐々に減じていく。1機艦に配属されている戦艦・巡洋艦・駆逐艦が凄まじい対空砲火を打ち上げている様は、網に掛かろうとしている獣が怒り猛り狂っているかのようだった。


 約30機のヘルダイバーが対空砲火によって撃退されたところでヘルダイバー群が一斉に身を翻した。


「敵艦爆、『大鳳』『瑞鶴』『葛城』に急降下! 各20機程です!」


「『大鳳』『赤城』取り舵! 『山城』『瑞鶴』『千代田』続けて取り舵! 第3、4航空戦隊各艦も転舵開始しました!」


 残数60機程度となったヘルダイバーは3隻の空母に狙いを絞り、それに反応するかのように1機艦の空母10隻がヘルダイバーから投下される1000ポンド爆弾を回避すべく回避運動を開始した。


 各空母の機銃が対空射撃に加わり、おびただしい火箭が突き上がり始めた。


 3年半前の開戦時には航空母艦に取り付けられている対空機銃の類いは数も少なく、威力も極めて貧弱なものだったが、今は最新の20ミリ4連装機銃などが装備されている艦もあり、対空射撃能力は格段に上昇しているのだ(といっても20ミリ4連装機銃が装備されているのはまだ防空戦艦の「陸奥」のみ)


 多数の射弾がヘルダイバーに殺到し、ヘルダイバーが次々に欠けていくが、被弾・墜落していく僚機を無視するかのように空母を肉薄にし、母艦から運んできた爆弾を投下する。


 爆弾着弾まで数秒だった・・・

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