第63話 中部太平洋の要衝④

1944年2月


 1943年の末から1944年の初頭に掛けて日本海軍機動部隊に新たな戦力が次々に加わった。


 更に、軍令部とGF司令部が相談した結果、従来の機動部隊だった第3艦隊を廃止して、新たに第2艦隊と第3艦隊を融合させた第1機動艦隊が新たに創設されることが決定された。


 第1機動艦隊の編成表は以下の通り


第1機動艦隊

司令長官 山口多聞中将

参謀長  草鹿龍之介少将


第1航空戦隊「赤城」「瑞鶴」(4月下旬に新鋭空母「大鳳」が加わる)

第2航空戦隊「龍驤」「瑞鳳」

第3航空戦隊「飛龍」「祥龍」

第4航空戦隊「千歳」「千代田」

第5航空戦隊「隼鷹」「飛鷹」


第1戦隊「大和」「武蔵」「長門」

第2戦隊「金剛」「榛名」「比叡」「霧島」


第4戦隊「高雄」「鳥海」「摩耶」

第5戦隊「那智」「羽黒」「妙高」

第7戦隊「熊野」「最上」

第8戦隊「利根」「筑摩」

第9戦隊「大淀」


第1防空戦隊「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」

第2防空戦隊「阿賀野」「能代」

第1防空駆逐隊「秋月」「照月」「涼月」「初月」

第2防空駆逐隊「新月」「霜月」「冬月」「春月」


第2駆逐隊「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」

第4駆逐隊「嵐」「萩風」「野分」「舞風」

第8駆逐隊「朝潮」「満潮」「大潮」「荒潮」

第9駆逐隊「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」

第4駆逐隊「嵐」「萩風」「野分」「舞風」

第10駆逐隊「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」

第16駆逐隊「初風」「雪風」「天津風」「時津風」

第17駆逐隊「浦風」「磯風」「谷風」「浜風」


 第1機動艦隊は空母10隻、戦艦7隻、巡洋艦17隻、駆逐艦40隻で構成されている大部隊であり、その規模は前身の第2艦隊・第3艦隊の規模を遙かに凌駕していた。


 第1機動艦隊の司令長官はトラック沖海戦の時から引き続き山口多聞中将が務め、草鹿参謀長以下の人事も、第3艦隊の時からほぼ変化がない。


 第1機動艦隊の旗艦は新たに準装甲空母へと生まれ変わった「赤城」となっており、その一新した「赤城」の面影は第1機動艦隊の各将兵を大変勇気づけていた。


 赤城は此度の大改装によって通常の木張り甲板を持った空母から、250キログラム爆弾の直撃にも耐えられるほどの装甲を保持した甲板を持った空母に生まれ変わっており、その姿はあたかも「赤城」が鉄塊から削り出されたかのようだった(装甲化の代償として「赤城」の搭載機数は66機に減少している)。


 米軍の新型艦上攻撃機「ヘルダイバー」が500キログラム爆弾を搭載出来ることを勘案すると、一見「赤城」の250キログラム対応の装甲甲板はちと物足りないように感じてしまう。


 しかし、250キログラム爆弾対応の装甲甲板を持った「赤城」が米軍機から被弾した場合、飛行甲板の防御力によって損傷が「赤城」の格納庫まで届かず、飛行甲板で留まる事が予想され、ミッドウェー海戦で起きた「加賀」の誘爆といった致命的な事態が起きる可能性は極めて低いだろうと艦政本部の方では考えられていた。


 そういった意味で新生「赤城」は当時の第1航空艦隊の僚艦であった「加賀」の思いを継いでいる艦とも言えた。


 更に第1航空艦隊には「赤城」の後詰めとして4月に最新鋭空母の「大鳳」が戦列に加わる予定となっている。


 「大鳳」は英海軍のイラストリアス級空母を参考にして川崎重工業神戸造船所で建造された艦であり、従来の空母には装備されていなかった新基軸がふんだんに採用された日本空母の完成形とも言える空母だ。


 「大鳳」の防御力のそれは「赤城」の250キログラム爆弾対応の装甲甲板を上回る、500キログラム爆弾対応の装甲空母となっており、当初の建造目標の「戦場にて敵航空機から多数の爆弾、魚雷をぶち込まれたとしてもその機能を失わず、最後まで戦列に留まることの出来る艦」を忠実に再現している。


 米海軍のように多数の巨大正規空母を戦列に加えることが出来ない日本海軍は、個艦の性能で対抗するしか無いため、「大鳳」「赤城」にはこれから艦隊の中核を担うような働きが期待されていた。


 そして中小空母に目を移すと新たに「祥龍」「千歳」「千代田」が戦列に加わった。


 「祥龍」は航空本部によって設計され、改⑤計画で建造が承認された改飛龍型空母の一番艦である。


 改飛龍型空母の2番艦以降も川崎造船所や佐世保造船所で建造中であり、2番艦の「瑞龍」は今年6月、3番艦の「天城」は今年8月、4番艦の「葛城」は今年の9月に順次竣工し、戦列に加わる手筈となっている。


 「祥龍」を始めとする改飛龍型空母は「飛龍」の船体設計図を流用した設計となっており、搭載機も57機と「飛龍」と大差が無いが、「大鳳」同様様々な新機軸が取り入れられており、「飛龍」の簡素型ながら「飛龍」よりも優れた部分もある艦だ。


 「千歳」「千代田」は元々水上機母艦だった2艦を改装した空母で、搭載機数も34機と決して使い勝手の良い空母と言うことは出来なかった。


 しかし、米海軍が多数の正規空母、小型空母を次々に戦列に加えている現在の状況下において貴重な戦力であり、1艦当たりの搭載機数が少ないからと言って決して馬鹿に出来る存在では無かった。


 第1機動艦隊が保持する航空戦力は空母11隻(「大鳳」込み)で合計搭載機数は554機となっており、第1機動艦隊はこの戦力を持って、6ヶ月後のマリアナ沖海戦に臨むのであった。

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