第46話 補給戦線激化⑧

1943年9月中旬



「3ヶ月前のトラック沖海戦で空母5隻を失った艦隊の攻撃力とは思えんな」


 海上護衛総隊司令長官の及川古四郎大将は米軍攻撃隊の第1次攻撃によって被弾・炎上している輸送船を見ながら呟いた。


「戦爆連合90機程度の敵攻撃隊に対してこちらは110機余りの零戦で迎え撃ちました。普通ならば攻撃隊が壊滅して戦果0で終わるところが、実際には5隻の輸送船に投弾を許してしまい、その内3隻の輸送船が被弾してしまいました」


 参謀長の島本も及川と同様の感想を抱いたのだろう。米軍の攻撃力の高さの驚いていた。


「艦橋から見ている限りでは、敵戦闘機隊の相手をした零戦隊がかなり苦戦をしているように見えたのだが・・・。今までこんな事は無かったよな?」


「今回から敵攻撃隊の護衛にF6F『ヘルキャット』がついたのでしょう。この機体はトラック沖海戦で少数機が確認されていましたが、今回の海戦では敵戦闘機隊全てがF6に置き換わっていると考えて間違いないでしょう」


 及川の疑問に対して島本が即座に答えた。


「F6Fと零戦21型の性能差はそんなに隔絶しているのかね?」


 及川も開戦以来の零戦21型の大活躍・無敵神話を前線で見てきたので、その零戦21型が性能で敵新型戦闘機に大きく負けているという事が信じられないのだ。


「トラック沖海戦でF6Fと実際に手合わせをした搭乗員からの報告によると、時速は約600キロメートル/時にも達し、急降下速度も零戦32型甲よりも優れており、20ミリ機銃数発を命中させても容易には火を噴かないという事です」


「確か機動部隊に配属されていた零戦は21型ではなく最新型の32型甲だったはずだ。その零戦でもダメだったのか」


「長官、敵新型機に対する話はこれくらいにしておいて、今は敵の今後の空襲を凌ぐ方法を考えましょう」


 島本が話を本筋へ切り替えた。


「参謀長の言う通りだな。まずは被弾損傷した輸送船の手当をし無くちゃならん」


「被弾した輸送船には駆逐艦1隻、海防艦1隻ずつを付けて消火活動に協力させろ。先程の空戦で被弾して次の迎撃戦に参加する事が難しくなった機体は最寄りの母艦へ着陸させろ」


「『飛龍』の対空レーダーがしばらく反応しないようなら、残りの機体も順次母艦に着陸させて燃料・弾薬補給をさせろ」


「消火活動に協力しない残りの駆逐艦・海防艦は引き続き潜水艦に警戒しろ」


 島本の進言に従って、及川が次々に指示を出していった。


 海上護衛総隊は次の空襲に備えるために動き出したのだった。



 米軍の第2次攻撃隊が海上護衛総隊に来襲したのは現地時間の午後3時半過ぎのことであった。


 海上護衛総隊所属の5空母と「飛龍」から先程の迎撃戦を生き延びて再出撃準備が完了した零戦が次々と発艦して、防空網を形成し始めた。


 その零戦の数は第1次攻撃隊の時と同様に110機程度だった。


 それに対して米軍の第2次攻撃隊は100程度であり、たちまち大空の各所で大乱戦が展開された。


 まず、40機ほどの零戦が真っ先に敵艦爆隊めがけて襲いかかり、そうはさせじと25機余りのF6Fが編隊から分離して零戦隊に挑んでいった。


 双方の戦闘機が空戦を開始して、被弾して力尽きた機体が1機、また1機と海面に向かって墜落していった。


 第1次攻撃隊の時は零戦隊と敵戦闘機隊はほぼ互角の空戦を展開していたが、今回は墜落していく機体が零戦のほうが明らかに多かった。


 零戦に搭乗している各搭乗員は一部の機体を除いて今日既に空戦を一回行っており、気力・集中力が途切れている搭乗員が続出していたのだ。


 しかし、F6Fと戦った零戦隊がF6F戦闘機隊の約半分を拘束してくれたおかげで、残りの零戦隊が敵の艦攻隊に波状攻撃を仕掛けることに成功した。


 敵艦攻隊にはまだ25機程度のF6Fが護衛として付き従っていたが、70機もの零戦が代わる代わる襲いかかってきたため到底全機を防ぎきる事は出来なかった。


 F6Fの奮闘空しく艦攻隊が次々に零戦に喰われてゆき、海上護衛総隊の上空に到達し零戦隊が離脱するまでに30機以上が失われてしまった。


 だが、残りの20機余りの艦攻隊は海上護衛総隊と輸送船団に攻撃を仕掛けることに成功した。


 艦攻隊による20分以上の猛攻の末、米海軍艦攻隊は4本の魚雷を命中させることに成功し、特設巡洋艦「華山丸」及び輸送船2隻の撃沈に成功し、輸送船1隻を大破の損害に追い込んだのだった・・・。


 海上護衛総隊の僚艦の沈没を目のあたりにした20機あまりの零戦が怒り狂い、海上護衛総隊からなんと100海里離れた海面まで敵艦攻を追いかけ回して10機以上の敵艦攻の撃墜に成功した。


 そんな一幕があったが、海上護衛総隊は3回目の空襲に備えるため零戦を再び収容し始めた。


 今回の米軍の搭載機は4空母で235機程度であり、あと1回の空襲があることが予想されたが、結局、この日これ以上の空襲が海上護衛総隊を襲うことは無かった。


 海上護衛総隊は多数の犠牲を払いながらも、辛うじて輸送船団(一部を除く)を守り切る事に成功したのだった。


 その後、海上護衛総隊が護衛した輸送船団は無事に内地の瀬戸内海に入り、各地の港で荷下ろしを行った。


 海上護衛総隊は今回も輸送船団の護衛に成功したのだった。


 








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