第2章 決戦への助走

第39話 補給戦線激化①

1943年8月下旬 



 現在の海上護衛総隊の状況について解説しておこう。


 1942年の9月に最初の任務(陸軍救出作戦)を見事に成功させた海上護衛総隊は、設立されてから1年が経過した時点で計80回以上の輸送作戦を成功させており、海軍中央部からの評価も上がっていた。


 海上護衛総隊が設立されたことによって輸送船の帰還率が大幅に上昇し、被害が激減していった。最初は連合艦隊司令部も設立には乗り気では無かった海上護衛総隊だが、今は徐々に日本軍全体から頼りにされる部隊に成長していた。


 それに伴い、海上護衛総隊の保有戦力も大幅に増強され、新型の駆逐艦や海防艦も多数が配備された。


 1943年8月現在における海上護衛総隊の保有戦力は以下の通りだ。


海上護衛総隊 

司令長官 及川古志郎大将

参謀長  島本久五郎中将

戦力

・護衛空母「大鷹」「雲鷹」「冲鷹」「海鷹」「神鷹」

・練習巡洋艦「香椎」

・特設巡洋艦「華山丸」「北京丸」「長寿山丸」

・駆逐艦4隻、8隊 全32隻

・海防艦6隻、10隊 全60隻

第453海軍航空隊 第901海軍航空隊 第931海軍航空隊 第932海軍航空隊 第933海軍航空隊


 海上護衛総隊の総隻数は100隻を超えるまでになっており、所属する航空戦隊も5個戦隊(保有機数240機)に増加した。


 更に、陸海軍協定により陸軍分の輸送船も海上護衛総隊の指揮下に組み込まれており、輸送船の保有隻数も300隻を突破していた。


 輸送船団が運んできた大量の物資・材料が国内に流入した事によって兵器生産にも拍車が掛かっており、物資の貯蓄も順調に進んでいた。


 米海軍の主力部隊が次の作戦行動を起こすタイミングが正確には掴めない今、兵器の増産と物資の貯蓄は最優先事項と目されており、軍令部も力を入れている分野であった。


 しかし、米輸送船の補給路に対する攻撃も熾烈さを増しており、予断を許さないような状況であった・・・



「今回の輸送作戦も上手くいった様だな」


 海上護衛総隊旗艦の練習巡洋艦「香椎」に座乗している及川古四郎大将は呟いた。


「香椎」は現在、台湾の基隆の軍港に錨を降ろしており、その右舷側では護衛空母2隻と駆逐艦16隻に護衛された多数の輸送船が入港している最中であった。


「護衛空母の総隻数がこの部隊創設時の2隻から5隻まで増勢され、ドイツ製の高性能レーダーを装備した新型の駆逐艦や海防艦が多数配備されたことが非常に心強い限りです」


 参謀長の島本久五郎中将が及川に言った。


「今度の輸送作戦はかなりデカい山になるぞ」と及川が発言し、艦橋の空気が引き締まった。


 及川は遡ること2日前、連合艦隊司令部から輸送作戦に関する指令を受け取っていた。連合艦隊司令部が海上護衛総隊に細かい指示を出す事はこれまで殆ど無かったため、特例中の特例と言って良い事例だ。


「現在、シンガポールにある我が軍の軍港内にドイツから最新の技術(主に航空機・陸上兵器関連)・部品とドイツ人技術者が乗り込んだ潜水艦が滞在している。海上護衛総隊が万難を排して潜水艦が運んできた技術・人を本土まで輸送せよ。との指令だ」


「総司令部の方から指示を出してくるなんて、その潜水艦が運んできた技術・部品には凄い価値があるんでしょうね」


「参謀長の言う通り、今回の輸送作戦は今までの輸送作戦とは比べものにならないくらい重要な任務となる。なので、輸送の護衛は海上護衛総隊が保有する全ての護衛艦を持って行うこととした」


「勿論、その潜水艦が運んできた部品の他に、各種戦略物資の輸送も同時に行う」


「予定では輸送船は120隻連れて行く予定だ」


「なるほど」


「ところで長官は数ヶ月前に爆発事故で大破した戦艦『陸奥』が防空戦艦に改装された後、この部隊に配備されることになったという事を御存知ですか?」


 島本は話の話題を変えた。


「そのことに関しては初耳だな。何処で聞いた情報かね?」


「私が1ヶ月前に内地に一時的に帰還し、軍令部によった時に友人から仕入れた情報です」


「参謀長は『陸奥』が防空戦艦に改装されると言ったが、具体的にどのような改装が施されるかということは知っているか?」


「爆発事故によって吹き飛んでしまった『陸奥』の第3、4主砲跡に高角砲8基(長10センチ砲)を搭載し、更に、機銃も大幅に増設されるらしいです」


「だが、この部隊に必要な力は防空能力では無く、対潜能力だ。何故『陸奥』がこの部隊に配備されることになったのだ?」


「『陸奥』では高角砲・機銃座の設置工事と並行して最新型の対潜レーダーが装備される事が決定しているからだと本官は考えます」


「『陸奥』がこの部隊に配属されたら、この部隊のシンボル的存在になるかもしれぬな」


「『陸奥』のような『ビック7』にも数えられたことがある巨艦が輸送任務に従事する日が来るとは、時代も変化したものです」


「『陸奥』の部隊合流はいつになる予定かね?」


「本官も詳しい日時は知らせれてはいませんが、『陸奥』の改装工事と慣熟訓練はあと4ヶ月余りで完了すると予想されます」


「4ヶ月か。 今回の大規模輸送作戦には間に合わぬな」


 及川が残念そうに言った。


 その後、及川と島本は様々な事に関して議論を交わし、大規模輸送作戦を詰めていった。
















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