第27話 「大和」の実力①

1943年6月18日 午後10時頃 トラック環礁夏島付近



「観測機より受信。敵部隊発見、大型艦2、中型艦2、小型艦10隻前後。距離12000メートル」


 敵艦隊発見を知らせる報告が第2艦隊旗艦の戦艦「大和」の戦闘艦橋に挙げられた。


 第2艦隊は約1時間前から多数の水上機を偵察のために放っており、その内の1機が敵艦隊を発見することに見事成功したのだ。


「大型艦は戦艦、中型艦は巡洋艦だろうな。単純に部隊の艦の数だけで考えるとこちらの方が有利だな」と第2艦隊司令長官栗田健男中将が呟いた。


「しかし、我が方の戦艦3隻の内2隻は旧式戦艦です。海戦の勝敗が戦艦同士の打ち合いによって決まるという事を考慮すると油断は出来ません」


 栗田の発言を聞いた第2艦隊参謀長の小柳富次中将が自分の意見を述べた。


 現在、第2艦隊は部隊を二分割しており「大和」が所属する第1部隊は「大和」の他に「金剛」「榛名」が付き従っている。


 発見された敵部隊より数(戦艦の数)の上では優位に立っているが、「金剛」「榛名」は大正年間に建造された旧式艦のため、戦力面で比較した場合(敵戦艦が全て新型だった時)第1部隊の方が敵部隊よりもやや不利だ。


「艦隊針路0度。同航戦に入る」


 第2艦隊司令長官栗田健男中将が大声で命令した。


「面舵一杯。針路0度」


 栗田の指令を受けて戦艦「大和」艦長松田千秋大佐が航海長の漆山修也中佐に下令し、漆山が操舵室に指示を送った。


「大和」の舵がすぐに効く事は無い。6万トンを超える巨艦は後方に戦艦「金剛」「榛名」を付き従え直進している。


「第4戦隊順次面舵。第2水雷戦隊続きます」


 見張り員が第1部隊の僚艦の動きを知らせてくる。


「観測機より受信。敵戦艦は新型艦、旧式艦に非ず」


 観測機から続報が届けられた。


 この海戦に米軍はサウス・ダゴタ級・ノースカロライナ級といった新型戦艦を投入していた。どちらも40センチ砲9門を装備している新型戦艦であり、「大和」をもってしても油断は出来ない相手だ。


「旧式艦ではなく新型か。この『大和』の相手には相応しいな」と栗田が観測機からの報告に反応した。


「敵大型艦から発射炎確認! 敵戦艦射撃開始した模様です!」


「第1戦隊各艦、距離10000メートルで射撃開始」


 栗田のこの一言によって戦闘艦橋の中は緊張感が一気に高まった。「大和」艦長の松田はこの戦いを前にして(日本海海戦の時もこのような感じだったのだろうか・・・)と一瞬脳裏に思い浮かべた。


「艦長、そろそろ艦隊戦が始まる。『大和』の指揮は頼んだよ」という栗田からの言葉があった。



 その衝撃は「大和」の付近に2本の水柱が立ちのぼったのと同時にやってきた。戦闘艦橋にいた全ての人間がその瞬間宙に浮いたような感覚になった。


 敵戦艦1番艦から放たれた3発の40センチ砲弾の内の1発が「大和」の艦後部に命中したのだ。巨弾の命中によって発生した衝撃波はそこにあった予備の観測機を完全破壊し、数人の「大和」の乗員を吹き飛ばした。


 被弾した箇所からは勢いよく黒煙が噴出しており火災が発生していた。


「早急に被害状況報告! 火災の鎮火も早急に行え、今は夜だから良い的になってしまうぞ!」と松田がいち早く指示を出した。


 その直後、

「後部飛行甲板に敵弾命中。観測機大破! 火災発生!!」


「火災は10分後には鎮火する予定!」


「機銃群も多少被害を受けた模様です!」

という報告が次々に飛び込んできた。


「宜しい。 初弾発射せよ!」と松田が一際気合いの籠もった声で下令した。


 「大和」の主砲発射を告げるブザーがけたたましい音を立てて鳴り響き、「大和」が生涯初めて46センチ砲を放った。


 「大和」が放った第1射弾(3発)は敵戦艦からかなり離れた位置に空しく水柱を上げただけに終わった。


 「大和」は射弾の着弾位置を少し修正してから第2射弾を放った。「大和」が第2射弾を放った直後、敵戦艦1番艦の第1斉射弾9発の内の1発が命中した。


 今度は艦の前部に位置している「大和」の第1主砲に命中したが、主砲は対46センチ対応の防御力が施されているため命中した砲弾を見事に弾き返した。


 「大和」の第2射弾はまたしても空振りに終わってしまい、次に放った第3射弾も外れてしまった。


「砲術、もっと気合いを入れて狙わんか! 敵のレーダー射撃は噂以上だぞ!」


 第3射弾が外れたタイミングで松田は堪らず砲術長に喝を入れた。


 この時松田の頭には「早く敵1番艦を叩きのめして、『金剛』『榛名』の援護に回らなければならない」という焦りの感情があった。


「次は当てます!」という砲術長からの返答があり、「大和」は第4射弾を放った。


 1分後、予備指揮所に詰めていた見張り員から「命中ーー!」という歓声混じりの報告が飛び込んできた。


「よくやったぞ砲術長!」


「次より斉射!」


 松田は砲術長に賛辞の言葉を送った後に、斉射移行の命令を下した。


 「大和」の真の実力が発揮されるのはここからだった。

















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