第26話 潜水艦部隊奮迅②

1943年6月18日 午後11時頃 トラック環礁春島付近



 日本軍潜水艦部隊によるTF12旗艦54・1への魚雷攻撃は計6回を数えた。その攻撃によってTF54・1が被った被害は以下の通りだった。


沈没 軽巡「マイアミ」、駆逐艦4隻

大破 戦艦「ノースカロライナ」

中破 駆逐艦1隻


 これらの被害の中で特にTF54・1として痛かったのは戦艦「ノースカロライナ」が魚雷を通算3本喰らって大破し、だし得る速力が12ノットまで低下してしまったことだ。


 「ノースカロライナ」が大破したことによって、TF54・1司令部は現在の「ノースカロライナ」が出せる最高の速力である12ノットで春島まで進撃するか、艦隊から「ノースカロライナ」を分離して「ワシントン」のみで艦砲射撃を行うかの2択を迫られることとなった。


 TF54・1司令部が選んだ選択は前者だった。


 司令部が前者の選択肢を採用した理由は2つあった。1つめは、最後の魚雷攻撃から既に1時間以上が経過しており日本海軍の潜水艦部隊は手持ちの魚雷を全て撃ち尽くしたと予想されるから。


 2つめは、もし「ノースカロライナ」を艦隊から分離した場合、敵の水上艦と出くわした時にひとたまりも無く撃沈されてしまうから。


 TF54・1司令部の「敵海軍の潜水艦部隊が魚雷を既に撃ち尽くしている」という見立ては的を射ていた。TF54・1に魚雷攻撃を仕掛けた日本海軍の潜水艦3隻(伊第9号・伊第10号・伊第11号)は既に戦場からの離脱を開始していた。


 TF54・1全体が度重なる魚雷攻撃のショックから立ち直り進撃を再開し、TF54・1全体に何処か安心したような(敵の魚雷攻撃を凌ぎ切った・・・)空気が流れ始めた。


 しかし、TF54・1司令部が、いや、アメリカ海軍全体に取って完全に盲点となっていたことがあった。


 それは何か?


 そう、日本軍は既に海軍だけでは無く「陸軍も」潜水艦を保有しているという事実である。



「身内(陸軍)の技術だけで建造したポンコツ潜水艦とは違って、海軍さんの技術提供によって作られた潜水艦は静寂性が抜群だな」と陸軍潜水艦「闘龍」試作1号艦の艦長を務める古長遼人少佐が感慨深そうに呟いた。


「陸軍単独で建造した潜水艦は静寂性云々を語る前に、潜行した瞬間に艦の中に水が流れ込んで沈没してしまいましたよ(笑)」と古長の呟きに反応した主計長の牛島竜也大尉が言った。


「陸軍は当初、海軍に潜水艦の建造に関して協力依頼は出していませんでした。しかし、ミッドウェー海戦の直後に海軍の方から提案があったそうですよ。渡りに船というやつです」


「潜水艦の建造経験が一回もないのにも関わらず、海軍さんに協力依頼を出していなかったとは陸軍のお偉方の頭の構造はイマイチわからんな」


「陸軍上層部のメンツというやつですよ。何でも、陸軍から海軍にお願い事をしたら陸軍の面子が立たない、とか上層部は考えていたそうですよ。又聞きの又聞きの情報ですが」


「その上層部の面子のせいで現場の俺たちが大きく損してしまうかもしれないと考えるとゾッとするな」


 古長と牛島がこのようなやりとりをしていると潜望鏡を確認していた士官から「敵部隊発見」の報告が挙げられた。


 古長がその士官に変わって潜望鏡を覗いた。


「敵部隊の艦隊速力遅すぎないか? 目分量15ノットも出ていないぞ」と古長が敵部隊を見て疑問を感じた。


「この春島付近の海域には私たちの他に、海軍の潜水艦部隊も展開しているという事前情報がありました。」


「その潜水艦部隊によって敵部隊の主力艦が重大な損傷を受けて、艦隊速力を下げざるを得なかったのではないでしょうか?」


 牛島が古長の疑問に対して答えた。


「主計長の見立て通りなら、この艦が狙う目標は一つに絞られたな」


 この時点で牛島の見立てを聞いた古長は狙いを大幅に損傷しているであろう敵主力艦1隻に絞ったのだが、「闘龍」は次発装填魚雷を持たないため発射できる魚雷が最大でも6本しかない。


 なので少ないチャンスで確実に決める必要がある。


「魚雷室、最初の雷撃で6本中3本を発射して敵艦に転舵を強要し、残りの3本で止めを刺すという芸当は可能か? 狙っている敵主力艦は既に何本か魚雷が命中していると予想されるので3本中1本でも命中すれば撃沈確実だと考えるが」


 魚雷室から担当の士官が飛び出してきて古長の質問に答えた。


「艦長の仰った方法は狙っている敵艦の舵に合わせてこちらも細かく転舵しなければならないなど難しい操作も一部存在しますが、魚雷室としては十分に実現可能だと考えます」


「よし。 ならばこの方法で行こう。細かい計算は魚雷室に任せるぞ」


 15分後、敵艦隊から5000メートルの位置まで接近した「闘龍」は3本の魚雷をまず発射した。


 この3本の魚雷走行音を探知したTF54・1の各艦は直ぐさま魚雷を回避すべく転舵を開始した。


 TF54・1旗艦「ノースカロライナ」は浸水によって艦の動きが相当鈍くなっていたが、早期のタイミングで魚雷走行音を探知出来たということもあり、辛うじて魚雷の回避に成功した。


 しかし、少し遅れたタイミングでやってきた3本の魚雷が「ノースカロライナ」から生還の希望を奪い去った。














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