第23話 トラック航空邀撃戦⑦

1943年6月18日 午後2時頃 トラック環礁東方200海里



 約140機からなる第3艦隊の第2次攻撃隊が敵乙部隊(TF52)の上空に到達したのは現地時間の午後2時過ぎだった。


 攻撃隊はTF52の約40海里手前の空域から敵戦闘機の激しい迎撃を受けた。第1次攻撃隊の時に存在が確認された敵の新型戦闘機(F6F)が30機弱迎撃戦に参加しているという事もあって攻撃隊には損害が続出した。


 僅か20分の間に艦爆10機、艦攻8機が撃墜され、艦爆・艦攻各3機が戦場からの離脱を余儀なくされた。


 しかし、敵戦闘機の迎撃を受けながら飛び続けること25分、攻撃隊の視界に平べったい艦上構造物を持つ4隻の艦が入ってきたのだ。


 第2次攻撃隊総指揮官を務める「瑞鶴」艦爆隊長江草隆繁少佐はすかさず「全機突撃」を命令したのだった・・・



 「ヨークタウン2」に爆弾2発・魚雷1本、「べロー・ウッド」に爆弾1発・魚雷1本。以上が今回の攻撃でTF52が受けた損害の全てだ。

「べロー・ウッド」はかなりの損害を受けてしまったが、両艦ともダメージコントロールに成功しており沈没することは無かった。


 「日本海軍の攻撃は相変わらず凄まじいものだった。しかし、我が艦隊の防御力がそれを上回り損害を限りなく少ないものにした。それがこの空襲の結果か・・・」とTF52指揮官のレイモンド・スプルーアンス少将が冷静に分析した。


 「日本軍の攻撃隊の総数が第1次の時よりも50機程度少なかった事に加え、F6F戦闘機隊の奮戦や、新たに戦列に加わったアトランタ級軽巡などの防空艦の対空火力がこの結果を呼び込んだと考えられます」とTF52主席参謀のウィルソン・ブラウン大佐がスプルーアンスの考えを補足した。


 ブラウンの言うとおり、TF52はこれまでの米機動部隊とは一線を課す新たな機動部隊であり、今後の機動部隊の有り様の手本となるような機動部隊だった。


 「第3次攻撃隊の攻撃指揮官機から報告です! 『我敵空母部隊を攻撃す。攻撃成功。敵大型空母1隻に爆弾3発・魚雷4本命中、撃沈確実。他1隻に爆弾2発命中』」


 スプルーアンスとブラウンが自軍の損害について分析していたときに第3次攻撃隊の指揮官機から攻撃結果に関する報告電が届けられた。


 その報告を聞いてTF52旗艦空母「エセックス」の戦闘艦橋がしばし歓喜の渦に飲まれた。スプルーアンスとブラウンも向かい合いながら頷いた。


 これでTF51、52が放った攻撃隊が上げた戦果は敵空母2隻撃沈、3~4隻中破となりTF51、52が受けた損害と同等になった。アメリカの生産能力は日本のそれを遙かに凌駕しているため、同等の損害ならば日本の敗北なのだ。


 時刻は既に午後3次を大きく回っており、今から攻撃隊を出撃させてしまうと攻撃後の着艦が夜間の時間帯となってしまうため、これからTF52が空襲を受ける可能性は皆無だった。


 被弾・被雷による損害が酷く発着艦不能に追い込まれた「べロー・ウッド」以外の3空母では迎撃隊の収容が始まっていた。


 F6Fの収容が真っ先に行われ、F4Fがそれに続く。その30分後、帰投してきた第2次攻撃隊の収容も行われた。


 TF51が空母2隻撃沈、1隻大破の損害を受けていて艦載機を収容出来るキャパが少ないという事情もあり、一部の機体が海中投棄されたが搭乗員は全員収容することができた。


 午後5時過ぎには全ての収容作業が完了し、TF52は第1級警戒態勢を解いた。


 疲れ果てた空母の乗員たちの一部が交代で夕食を食べ始めるなど、TF52にはつかの間の休息の時間が訪れたように思われた。


 レーダーが日本軍機の大群を捉え、TF52の全艦に空襲警報が鳴り響いたのはその時だった。



 アトランタ級軽巡「ジュノー」の電測長を務めるハリー・ランドール少佐はレーダーに移る多数の輝点を見て愕然としていた。


 既にTF51、52は攻撃隊・迎撃隊の収容を全て完了しており、この輝点が味方機のものであることはない。つまり、敵機だ。


 ランドールは瞬時に状況を悟った。この日の日本海軍に航空攻撃はまだ終わっていなかったのだ。日本軍は今日1日の戦闘で著しく損耗してしまったTF51、52にさらなる打撃を与えようとしているのだ。


 「電測室より艦長!! 敵機多数が来襲しつつある。機数100機以上」という報告を慌てて艦長にするが、TF52全体の初動が著しく遅れてしまったことと、迎撃する味方機が1機もいなかったという悪運が続きもはや手遅れだった。


 「襲来せる敵機はペディ(一式陸攻)! ヴァル、ケイトに非ず!!」

 襲来する敵機の姿を確認したランドールがさらなる報告を上げた。


 「ジュノー」が対空射撃を開始し、TF52の他の艦艇も負けじと対空射撃を始めた。しかし、対空放火に絡め取られて墜落していく敵機は数える程しかいない。


 敵機は「ジュノー」などの対空射撃が激しい艦を徹底的に避けて、先の空襲で損傷した「ヨークタウン2」「ベロー・ウッド」、そしてTF52旗艦の「エセックス」に向かっていく。


 やがて、多数のペディが爆弾・魚雷を投下した。次の瞬間3空母の飛行甲板・海面下に火柱と水柱が立ち登った。


















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