第10話 第3艦隊初陣④

 1942年10月下旬 午後2時頃


 日本海軍機動部隊から放たれた第2次攻撃隊が敵戦闘機隊の迎撃網をくぐり抜け、米輸送船団とその護衛艦艇群の上空にたどり着いたのは、第1次攻撃隊が帰路についた約1時間後だった。


 この時点で敵戦闘機隊との交戦によって、第2次攻撃隊140機の内、約2割に当たる30機が撃墜もしくは撃破されていた。


 しかし、敵戦闘機隊が第1次攻撃隊との交戦によって損耗していたため、第2次攻撃隊の損害は第1次攻撃隊の時よりも僅かに少なかった。


「1次の連中は派手にやったもんだな」と第2次攻撃隊総指揮官を務める「翔鶴」艦攻隊長村田重治少佐が呟いた。


「前方に敵艦隊発見! 空母4隻に火災煙を認める!!」

操縦席の横に取り付けてある伝声管から、偵察員を務める海野良太兵曹長の声が届いた。


 村田が機体を少し傾け海面を見ると、海野の言うとおり平べったい甲板を持つ船が4隻火災煙を吹き上げており、その内2隻は雷撃によって水面下をやられたのか、甲板が急坂のごとく傾いており今にも沈みそうだ。


 第1次攻撃隊が敵空母2隻撃沈、2隻撃破の戦果を上げたのだ。


「出来れば、既に損傷を負っている敵空母にとどめを刺したいのだがな」と村田は未練がましそうに言った。


 第2次攻撃隊の攻撃目標は主に輸送船と出撃前から定められており、敵空母を攻撃すると命令違反となってしまうのだ。


 しかも、第2次攻撃隊は敵輸送船多数を撃破するために艦爆隊中心の編成がとられているため、敵の護衛空母ならまだしも、敵の正規空母を撃沈することは至難の技だ。


「敵輸送船団は主に2群に分かれて航行している、前方の船団を『乙1』、後方の船団を『乙2』と呼称す」

「『翔鶴』『瑞鶴』の爆撃隊、雷撃隊目標『乙1』、『飛龍』『隼鷹』『飛鷹』爆撃隊目標『乙2』とする」

「攻撃目標は輸送船、繰り返す、攻撃目標は輸送船、空母や戦艦にあらず」と村田が矢継ぎ早に攻撃目標を振り分け、指示を出した。


「飛龍」「隼鷹」「飛鷹」の攻撃隊は爆撃隊のみの編成となっているが、「翔鶴」「瑞鶴」の編隊は雷爆連合の編成となっている。


 5空母の爆撃隊は、3000メートルの高度から敵輸送船団に接近し、「翔鶴」「瑞鶴」の雷撃隊は、海面付近までおりていく。


 海上に多数の発射炎が閃いた。


 護衛の戦艦、巡洋艦、駆逐艦が対空射撃を開始したのだ。


 空中に次々と爆発光が閃き、爆風が97艦攻の機体を揺さぶった。


 早くも、翔鶴雷撃隊9機の内1機が被弾して墜落していき、次の瞬間もう1機が至近弾を喰らい、両翼をもぎ取られて墜ちていった。


 米艦1隻あたりの弾幕の量は、日本海軍の艦など比べものにならないくらい激しく、射撃精度も日本軍のそれとは比較にならないくらい正確だ。


「『翔鶴』隊2機被弾! 『瑞鶴』隊も1機被弾した模様です!」


「目標までの距離、約2000メートル!」


「『乙1』所属の輸送船は約20隻! 本機は一番先頭の輸送船を狙います!」

と海野が伝声管を通じて、現在の状況について次々に報告を上げてくる。


 敵艦の隙間をくぐり抜けようとした時に、一層激しい対空砲火を浴びせられる。


 爆風が機体を激しく煽り、飛び散る大量の断片が村田の機体を叩いた。


「目標までの距離、1800メートル、1600メートル、1400メートル!」と海野が目標までの距離を測り、村田の報告する。


 こうしている間にも、「翔鶴」隊の内1機が被弾によって消し飛んだ。


 村田機の上からも、青白い火の玉を思わせる曳痕が殺到してくる。


 1つ1つが、握りこぶしほどの大きさがあるように感じられ、もし1発でも被弾した場合、一撃で機体が打ち砕かれることは間違いない。


 次の瞬間には機体が打ち砕かれて死を迎えているかもしれないが、村田の97艦攻は敵輸送船の下腹に魚雷を撃ち込むべく接近を続けている。


 一足先に「瑞鶴」の雷撃隊が投雷を開始した。


「瑞鶴」雷撃隊残存6機から6本の魚雷が放たれ、その内3本が敵輸送船の海面下を抉った。


 魚雷を喰らった3隻の輸送船は急速に傾いて沈みつつあった。


「次は俺たちの番だな」と村田が自分に言い聞かせた。


「残り800メートル! 600メートル! 400メートル!」と海野が読み上げ、海野が「400メートル!」と読み上げるのと、村田が魚雷を投下するのがほぼ同時だった。


 40秒後、村田が狙った輸送船の下腹に巨大な水柱が立ち上った。村田機が投下した魚雷が輸送船に直撃したのだ。


 数分後、村田の機体は高度3000メートルの上空にいた。


 村田が上空から敵艦隊を見下ろした。


 敵艦隊がいた海面から多数の火災煙が立ち上っていた。


 その全てが輸送船から上がっているものだ。


 どの隊がどの輸送船を叩いたのかは分からないが、第2次攻撃隊は敵輸送船多数を撃沈破することに成功したのだ。


 第2次攻撃隊の集結を待って村田は機首を母艦の方向に向けた。


 母艦に帰るまでが攻撃隊に課された任務だった。






















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