第8話 第3艦隊初陣②

 1942年10月下旬 早朝


 第3艦隊の現在位置はラバウルの北西だ。


 現在、第3艦隊は空母7隻を中心とした輪形陣を組み進軍している。


 第3艦隊は敵輸送船団の所在を探るべく、未明に多数の索敵機を発進させた。

また、それと同時にトラック環礁の基地航空隊も多数の索敵機を発進させ濃密な索敵網を築いた。


 第1航空戦隊旗艦の「飛龍」とその僚艦の「翔鶴」「瑞鶴」では、夜明け前から第1次攻撃隊の艦戦、艦爆、艦攻が暖気運転を始めていた。


 第2航空戦隊所属の4空母でも同じことが行われているはずであり、どの空母でも命令あり次第攻撃隊を発艦させることが出来る。


 空母「飛龍」の艦橋では攻撃目標の優先順位に関する最終確認が行われていた。


「参謀長、攻撃目標の優先順位は間違いなく搭乗員に周知徹底されているな」と山口が草鹿に言った。

「はい、既に各空母の艦長を通して搭乗員に伝わるように手配済みです」と草鹿が山口の疑問に答えた。


今回の作戦で第3艦隊は攻撃目標の優先順位を定めている。

①正規空母、護衛空母

②輸送船

③戦艦などの空母以外の護衛艦艇


「第1次攻撃隊の攻撃目標は敵空母ですか、搭乗員たちは張り切っているでしょうな」と航空甲参謀内藤優羽中佐が発言して、作戦参謀の鳥居亮中佐が同意した。


「搭乗員、特に、ミッドウェー海戦で母艦を失ったものはミッドウェーの雪辱に燃えているでしょう」


 その時、通信兵が艦橋の扉をぶち破らんばかりの勢いで入ってきた。


「司令長官、参謀長、索敵機より敵艦隊発見の知らせです!」

「読め」と山口が落ち着いた様子で命じた。


「敵輸送船団とその護衛艦艇群発見、輸送船40隻以上、空母5隻、戦艦2隻、巡洋艦駆逐艦多数、位置はラバウル北東130海里」


「発見された空母5隻のうち、半数以上は護衛空母だな。戦艦2隻は去年竣工した新鋭艦か。」と山口が現状を冷静に分析した。


「長官!」と草鹿が興奮した様子で攻撃隊の発進を催促していた。


「うむ! 第1次攻撃隊発進せよ!」と山口が大音声で命じた。


 普段から闘将で知られる山口も敵艦隊発見の報を前にして興奮を隠しきることが出来なかったのであろう。


 飛行甲板上では艦長の訓示が始まっていた。


「搭乗員整列!」


「敵艦隊と我が艦隊の距離は現在およそ250海里だ。巡航速度で飛んだ場合、順当にいけば約1時間30分で敵艦隊を捕捉できる、諸君には日本のために敵艦隊を存分に叩いて貰いたい!」


 加来止男空母「飛龍」艦長はここで一回言葉を区切った。


「最後に諸君に一つ言っておきたい事がある。自分の命を大切にしろ」


「敵艦隊との交戦によって機体が被弾損傷してしまったり、あるいは搭乗員自身が負傷してしまったり、帰還途中に自らの機位の見失うこともあるだろう。しかし、そのような事態に陥ったとしても、決して母艦に辿りつくことを諦めてはならない。」


「諸君1人1人の命が日本にとってかけがえのない財産であり、これからの日本の礎なのだ。艦長の私も、司令長官も、いや、この空母『飛龍』の全乗員がここに居る諸君と生きて再び再会できることを心から願っている。以上!」


「敬礼!」と飛行隊長が言った。


「風に立て!」と加来が指示し、「飛龍」が取り舵を切り風上へ突進し始めた。


 零戦の1番機の輪留めが真っ先に外され、エンジンを開き飛行甲板を駆け抜けて発艦していった。


 第1次攻撃隊の出撃機数は、第1航空戦隊の「飛龍」から零戦12機、99艦爆、97艦攻各9機。

「翔鶴」「瑞鶴」からは零戦20機、99艦爆、97艦攻各9機ずつ。


 第2航空戦隊の「隼鷹」「飛鷹」からは零戦、99艦爆、97艦攻各9機ずつ。

「龍驤」「瑞鳳」から零戦9機ずつ。


合計178機となる。


「空母7隻分の攻撃隊ともなるとすごい規模になるもんだな」と空母「翔鶴」艦爆第1中隊・第3小隊・2番機を務める杉山久少尉が感嘆混じりに言った。


「この178機という数は真珠湾攻撃の第1次攻撃隊の総数を優に上回りますからね」と偵察席に座っていた前田龍兵少尉が言った。


「今回も米空母に一発お見舞いしてやろうや」と杉山が意気込み、前田が大きく頷いて同意した。


 杉山・前田のペアは6月に行われたミッドウェー海戦で米空母「ホーネット」に250キログラム爆弾を直撃させており、ミッドウェー海戦が初陣だった2人には大きな自信となったのだ。


 幸い杉山・前田が乗っている99艦爆は大きなトラブル無く1時間以上飛びきった。


 不意に第1次攻撃隊の総指揮官機が大きくバンクした。


 杉山が前方を注視すると、小さいごま粒のような黒点が、多数攻撃隊の進路を塞ぐようにして現れた。


 ミッドウェー海戦以来4ヶ月ぶりの大規模海戦が開戦しようとしていた。




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