第5話 陸軍救出作戦②
1942年9月14日
この日の海上護衛総隊に対する米海軍海兵隊所属機の空襲は、午前中に2回、午後に1回の合計3回だった。
米軍機が来襲する度に、「大鷹」「雲鷹」の零戦隊は果敢な防空戦を展開し、敵機多数を撃墜した。
午前中の空襲は「大鷹」「雲鷹」の零戦隊が撃退したものの、午後に行われた空襲で零戦隊の防空網が突破され、輸送船1隻が撃沈され、1隻が大破した。
海上護衛総隊はここにきて、初めて輸送船を失ってしまったのだ。
この時点で、海上護衛総隊は西部ニューギニアの陸軍撤収地点まで、110海里のところに迫っており、時刻は午後3時を回っていた。
そして、午後4時30分、この日4回目となる海軍護衛総隊に対する空襲が始まろうとしていた。
「米軍は随分執拗に攻撃をかけてくるな。1回1回の空襲で来襲する機数が少ないから良いものの。」
海上護衛総隊旗艦、練習巡洋艦「香椎」の艦橋で司令長官の及川古四郎大将が呟いた。
「『大鷹』『雲鷹』戦闘機隊、敵機に向かいます。」と「香椎」の後部見張り員が報告を上げた。
「戦闘機隊交戦始めました!」と見張り員が続けて報告を上げた。
これまでの計3回の空襲によって、「大鷹」「雲鷹」の戦闘機隊は打ち減らされており、2空母の戦闘機は20機を大きく割り込んでいた。
それでもなお、海上護衛総隊の上空を10数機の零戦が守っていた。
しかし、米軍の攻撃隊は40機弱であり、空中戦の戦場は徐々に海上護衛総隊の上空に近づいてきた。
敵航空機が1機、また1機と落ちていくたびに、「香椎」の艦上各所で歓声が上がり、艦全体に力強い声援が響き渡った。
しかし、全機を阻止するには至らず、零戦隊の防空網を突破した敵雷撃機5機が「香椎」に接近してきた。
その敵雷撃機隊に向かって、一機の零戦がフル・スロットルで突っ込み、20ミリ弾と7.7ミリ弾の火線を浴びせて、雷撃機2機を海に叩き落とした。
しかし、残りの3機は戦友の死に全く臆することなく「香椎」をギリギリまで肉薄にしてきた。
「艦長より砲術長、敵雷撃機3機が右舷低空から接近しつつある」と「香椎」艦長小野寺政虎中佐が張りちぎれんばかりの大声で砲術長に命令した。
「目標、右舷低空の敵機、宜候!」と砲術長が命令を復唱した。
砲術長が射撃を命じたものの、「香椎」の主砲である14cm連装砲2基4門は対空射撃には不向きであり、機銃も13mm単装機銃8丁に過ぎない。
「香椎」以外の艦も対空兵装は「香椎」と同等かそれ以下であり、とても敵全機を阻止することは出来ない。
敵雷撃機3機は機銃弾を蹴散らすように接近し、魚雷を投下しようとしたとき、基準排水量5830トンを誇る「香椎」の艦首が左に振られた。
小野寺は、連装砲と機銃のみでは敵機を阻止出来ないと考えて早めの転舵を命じていたのだ。
投雷を終えた敵機が「香椎」の上空を通り過ぎていく。「香椎」の上空を通り過ぎた敵機のうち1機が13mm機銃の火箭に捉えられた。
敵機が投雷するまで全く当たらなかった機銃だが、ここに来て初めて戦果を挙げたのだった。
30秒後、「香椎」の右舷側を3本の雷跡が通過した。「香椎」は雷撃の回避に成功したのだった。
「『北京丸』被弾1! 速力落ちます!」という報告が不意に艦橋に飛び込んだ。
「香椎」は雷撃の回避に成功したものの、海上護衛総隊全体としては被害をゼロにすることは出来なかったのだ。
このとき、「香椎」の艦橋からは死角となって見えていなかったが、輸送船2隻が海面下を抉られて完全に動きを止めていた。
被雷した輸送船のうち1隻は既に横転しており、さほど時間をおかずに、もう1隻が海面下に消えることは誰の目から見ても明らかだった。
輸送船2隻の被雷を最後に米海軍の攻撃隊は急速に引き上げつつあり、海上護衛総隊の上空には静寂が戻りつつあった。
時刻は既に午後5時20分を回っており、これから敵機が来襲することはない。
多少の被害を出したものの、海上護衛総隊は20隻以上の輸送船を守り切ったのだった。
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