異史・太平洋戦争
霊凰
第1章 トラック攻防戦
第1話 転換点
1942年6月10日
東京霞が関内にある海軍省の大臣室に4人の男が参集していた。
連合艦隊司令長官の山本五十六大将、海軍大臣の嶋田繁太郎大将、軍令部総長の永野修身大将、軍令部次長の井上成美中将の4人である。
本来、このような蒼々たる面子が集まることなど滅多に無いのだが、軍令部次長の井上成美中将が総長の永野に頼んで、このような席がセッティングされたのだ。
「ミッドウェーは痛み分けか」と永野が言った。
「現場の将兵は各々奮戦してくれたが、あと一歩及ばなかった。」と山本が首を振りながら言った。
山本の顔には疲れの色が見え、体は見るから痩せ細っており、軍服もサイズが合っていないように見えた。
連合艦隊司令長官として米軍の巨大な戦力と直接対峙する事のプレッシャーがどれほど凄いものなのかが、山本の今の顔つきに表れている。
約1週間前にミッドウェー島付近で行われたミッドウェー海戦は日米双方の痛み分けに終わった。
この海戦は航空戦が行われた後に、夜間砲撃戦が勃発し、その結果双方の被害が増大したのだ。
・日本海軍損害
沈没
空母「加賀」「蒼龍」 戦艦「伊勢」 重巡洋艦「三隈」「愛宕」
駆逐艦3隻
大破
空母「赤城」爆弾3発、魚雷1本命中
戦艦「日向」第2主砲、第3主砲損傷 「扶桑」第2、3、4、6主砲損傷
「山城」第4、5、6主砲損傷
重巡洋艦「鳥海」魚雷1本命中
中破
重巡洋艦「摩耶」 軽巡2隻、駆逐艦3隻
・戦果(米海軍損害)
沈没
空母「ヨークタウン」「エンタープライズ」
戦艦「ニューメキシコ」「ミシシッピ」「アイダホ」
重巡洋艦「ミネアポリス」
駆逐艦4隻
大破
空母「ホーネット」爆弾2発、魚雷2本命中
戦艦「コロラド」第1、2主砲損傷
中破
重巡洋艦2隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦3隻
「大和」「長門」「陸奥」の砲撃により、ミッドウェー島完全破壊
「この海戦で米海軍にもかなりの損害を与えたが、壊滅状態まで持って行くことは出来なかった」
山本が永野に言った。
「これで、『緒戦で米軍、特に太平洋艦隊を徹底的に叩き、壊滅状態に陥れ、米国民の戦意の喪失を誘い、戦争の短期終結を目指す。』という作戦目標は達成不可能になってしまったな」
「米英との交渉状況はどうだ?」
山本が嶋田に聞いた。
「良い感触は全くないな」
嶋田が顔を歪ませながら答えた。
嶋田は話を続ける。
「ソ連や中立国を通じての接触、交渉、ローマ法王による和平の仲介など色々な方法を試してはいるが、結果ははかばかしくない」
「海軍の、いや、日本全体の認識が甘すぎたということだろう、さっき嶋田が言った戦略目標は画餅に過ぎなかったという事だ」
そう言った山本がうなだれた。
「これからは、どのように長期戦を戦い抜いていくかを考える必要があるということか」
永野が言った。
「これからどのような施策や新計画を打ち出すべきだとおもうかね、井上君」
山本が井上に話を振り、これまで黙っていた井上が口を開いた。
「今回の海戦の結果を考慮した建艦計画の大幅変更、米潜水艦による通商攻撃に対する対処、海軍予算の大幅増額、さらに、新しい戦争大綱の素案の作成など、やらなくてはならないことがたくさんありますな」
「あと、今回の海戦の戦闘詳報を熟読し、得られた戦訓も随時取り入れていかなくてはなりません」
井上が続けて言った。
「海軍大臣の俺が言うのもなんだが、この戦争は海軍の力だけでは遂行不可能だな」
嶋田が言った。
「連合艦隊司令長官として、米海軍と渡り合って同様のことを考えていた」
即座に山本が同意した。
「2人は陸海協調を進めるべきだという意見を持っているのか?」
永野が目を見開いて驚くような仕草をした。
「自分は海軍と陸軍の関係性は今の帝国とアメリカの関係性よりも悪いと考えているが」
永野が自嘲的に呟いた。
「陸海協調について考えていることがあります」
そう井上が呟き、三人の視線が一斉に井上に集まったのはその時だった・・・
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追記(2021年11月16日)
私、霊凰の第2作である「大海の荒武者1 『倭寇』作戦始動」が今日連載を開始しました。架空戦記に興味がある読者の方はぜひお読みください。
「大海の荒武者1 『倭寇』作戦始動」
https://kakuyomu.jp/works/16816700428792937931
昨日、読者の皆様の多大なる応援のおかげでこの1作目を完結させることができました。感謝申し上げます。
第2作も変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。
霊凰より
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(追記)
2022年4月1日より伝説の八八艦隊を主役とする「八八艦隊奮戦記 ~大艦巨砲の彼方~」の連載が開始しました。
「八八艦隊奮戦記 ~大艦巨砲の彼方~」
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2022年4月3日 霊凰より
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