第二話 八万尺様の護仏壇(ごぶつだん)
「
「
いつもの
「八万尺様は、
「独特な声ってのはなんだい、村長さん?」
「それは呪われたものにしか解らないのですな。この村で
「あれも信心の
「いかにも。犬が吠えれば、悪いものは遠ざかりますじゃ」
そうなの? と藍奈に視線で
そういうこともありますと、
「だいたい話はわかったけどさ、おじいちゃん。じゃあなんでこの――」
「
「そう、丈治さんは
あたしの問い掛けに答えたのは、村長さんではなかった。
本人こそが、悲鳴とともに泣きついてきたのだ。
「き、聞こえるんでさ! 仏壇から遠ざかると、あの不気味な声が……!」
「……
顔から出る、ありとあらゆる粘液をこぼれさせながら抱きついてくる丈治さん。
ニッカポッカに体液のあとが出来てしまうが、弱っている人を
「な、情けねぇ……それでもアタシの
「はじめて意見が合いましたね。これは
姐さんとか藍奈とかにぼろくそ言われているが、だれだって命を狙われれば多少なりとも心細くなるものだろう。
「しかし。ふん、声ね。だったら、聞いてみようじゃあねぇか、その声ってやつを」
「え――? ちょ、
むんずと丈治さんの首根っこを掴んだ姐さんは、その場にいた誰もが予想できない行動をとった。
丈治さんを引きずって、屋敷の外へ出て行こうとしたのだ。
「な、なにをやっているですじゃか!?」
村長さんが慌てて止めようとするが、姐さんは止まらなかった。
口元に
そのときだった。
ぽ、ぽぽ、ぽぽぽ――ぽん。
奇妙な。
本当に奇妙な音色が、響いた。
声……と呼ぶにはいささか張りがありすぎる。
破裂音に近いようでいて、しかしもうすこし
聞き覚えがあるようで、ないような、奇っ怪な音が屋敷中に響き渡って。
「はン!」
姐さんの口元の笑みが深くなる。
藍奈が身構え、丈治さんは悲鳴を上げて。
そして、あたしは
ぽ、ぽぽぽぽ――ぽん。
立っている。
足までしか見えない女性が、立っている。
白いワンピースの女だ。
/違う、これは〝赤い〟のだ。
ドアの隙間から見えるだけで、三メートル以上あるだろうか?
だが、見上げればそんなものではなかった。
屋根より高い。
空よりも高い。
どれほど
顔どころか、胸までしか見えない。
首筋に、
脳が勝手に想像する、
首の骨が、ミシリと嫌な音を立てて――
「
スパンと、足が滑った。
藍奈に足払いをかけられたのだと
……だから、助かった。
するりと、首筋からなにかがほどけていく感覚。
「あ、あのまま見上げていたら、あたしは……」
「死んでいたかもしれませんね」
「……! そうだ、丈治さん! 大丈夫!?」
「おう、こっちは無事だ」
ハッと庭に目をやるが、もうそこに、八万尺様の姿はなかった。
「
どうやら、姐さんが撃退してくれたらしい。
外では、たくさんの犬たちが吠え立てていた。
「……最悪だ」
「ヴァーカ。こういうのはな――楽しくなってきやがった! っていうモンなのさ」
まるで獲物を前にした肉食獣のように。
姐さんが、
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