第五話 絶品肉に舌鼓を打ちつつ、雇用主を問い詰めろ!
「今日は山ほどお肉が手に入りましてな! なので、とびっきりの鍋にしました」
だが、正しくもなかった。
今日は肉の鍋なのではない。
今日も肉の鍋なのだ。
この村にやってきてから
そして、その量は日増しに増えていた。
お弁当に持たされるのは毎度、生の肉だ。
あたしは気にせず食べているが、藍奈は胃腸がどうのこうのと言い訳をして、野生動物たちに
あの日のお弁当も、そういう
肉自体の、味がいいのは確かだ。
けれど――こんなに
「
天国のような食生活も、ことここに至れば違和感に
甘い、肉が焼けるとき特有の臭いが、屋敷の中にはたちこめていく間も、胸中はざわめき続ける。
「山の幸
あたしは、
「綾釣さんは、食べないの?」
「――――」
出会って以来一口も。
米粒ひとつ口にしない老人は。
ただ、無言で笑っていた。
そういうお面をかぶっているような、形の変わらない笑みだった。
「この村は
藍奈が、あたしの言葉を引き継ぐようにして口を開く。
「草木は
「……都会へ、帰りたくなりましたかな?」
綾釣さんが、笑みの形を変えないまま問うた。
巫女はゆっくりとかぶりを振り、それから頷いてみせる。
「帰るつもりはありませんが――仮に村を出るとしたら、仕事はどうなりますか」
「そこで打ち止めということになりましょうな。無論、報酬は当日分までお支払いします」
「引き留めはしないと?」
「もとより、そんな権限はこの爺にありませんのでな」
老人はゆるゆると首を振った。
「しかし、出来ることならば
「供養と言いましたか」
「この老いぼれは
笑っている。
老人の声には
なのに彼は笑っていた。
どうしようもない
共感性の
いや、もっと近い感情を探すのなら、それは両親と別れたときの――
「
藍奈が。
その目つきをわずかに鋭くして。
「
「心霊バイトのオーナー……だけではありませんな。この村を見捨てられないと、そう
老人は、そこで言葉を切り。
そうして、やはり笑顔で、言い切った。
「
§§
あと三日待ってほしい。
綾釣さんは穏やかに、あたしたちへと
待ってくれればすべてを話すと、彼は約束し、藍奈は了承した。
勝手に決められてしまうのは
ただ、気になることもあった。
「サイギョーがどうの、供養がどうのっていうのは、なに?」
素直に質問すると、藍奈はあたしを見詰め。
それからポンと、こちらの肩へと手を置いてきた。
「おまえ……そこまで無知だったのですね」
「え? 普通に
「まさか義務教育の敗北を目の当たりにするとは思いませんでした。
そ、そこまで言われることかなー!?
「
「だるま?」
「いえ――話が脱線しました。西行の
有名というと、あたしでも知っているぐらい有名なものだろうか。
そう目線だけで
よくみると、肩を小刻みにふるわせている。
「あ、笑うのは
「失礼。おまえ相手に失う礼節もないですが、失礼」
ようやく顔をこちらに戻した彼女は、小さく呼吸を整え。
「かの僧侶は、山に
巫女が、告げる。
「
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