第3話 俺のせいだから

『わぁ……!やっぱり森の奥にいる凄腕の魔法使いさんって、貴方だったんですね!』


 目の前から聞こえた元気なその声に、思わず固まる。

周りに誰もいないと確認したはずなのに、箒を渡した女性の姿。

どうしよう。どうしよう。

背筋を冷や汗が伝う。

「来るな!近寄るな!」

「え?何で……」

「ここら辺は危険だ、お前みたいな奴が来ていい場所じゃ……」

女性に魔物が近づいていく。

また人が死んでしまう、自分のせいで。

怖くて身体が動かない。

——しかし、次の瞬間。

魔物達が吹っ飛び、絶命した。

呆気に取られて女性を見るシャロウ。

「もーっ。わたしだって、戦えるんですからね!」

「な、……」

「なめないでくださいよぉ」

そう言って、彼女は魔物を次々と倒していく。

彼女が死ななかった安堵からか、気が遠のいていく。

女性からの言葉を最後に、シャロウは気を失った。




 これは夢なのだろう。

だって、目の前に居ないはずの親友がいるのだから。

『俺達、ずっと一緒だからな!』

そう言って自分に笑顔を向けてくる親友。

あの時は、どう返していたっけ。

ぼんやりと、そんな事を考える。

しばらく親友の話を聞いていたが、いつの間にか親友の姿がうっすらと透け始めた。

消えていく親友に向かって、手を伸ばす。

——嫌だ、行かないでくれ……!


 ハッ、と目が覚める。

目の前には、よく知っている自室の風景。

「……あ!起きましたね」

その声に、びくりとして横を向く。

「お前、は……」

「急に倒れてしまったので心配でした……大丈夫ですか?」

「……倒れ、たのか。俺は」

「あれ、泣いてる……?何か、あったんですか?」

「……?」

そう言われて目元を拭ってみれば、確かに涙が溢れていた。

ああ、そう言えば、親友といる夢を見ていたような。

「悲しい事があったのなら、話くらい聞きますけど……」

「……お前には、何も分からないだろ」

そうだ、この女性には早く帰ってもらわないと。

そう思い、わざと強い言葉を使う。

ここは危険だ。自分がいる限り、ずっと魔物が現れる。

「……そう、ですけど……でも、寄り添うことくらいは、出来ます」

「いいから、帰ってくれ」

「どうして、そんな事言うんですか?心配してるのに」

「何でもいい、さっさと帰ってくれ」

嫌われ者役を演じるのは、もう慣れているから。

「……分かり、ました。しっかり休んでくださいね」

そう言い残し、彼女は家を出ていく。

「すまない。本当は、そんな事が言いたい訳じゃないんだ。……すまない」

きっと、自分はこのまま死んでいくんだろう。

これは罪滅ぼしだ。親友を守れなかった自分への、罰だ。

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