俺が悪かった!神さまよ!(笑)

門前払 勝無

第1話

「俺が悪かったよ神さま(笑)」


 上野の横丁でホッピーを呑みながら干からびたレバーをつまむー。


「ゲンちゃん、仕事は?」

マスターが聞く。

「現場終わったから祝杯だ」

ゲンちゃんが言った。

「ゲンちゃん…それ昨日も言ってたよ」

「一昨日終わったんだよ!うるせぇな!」

ゲンちゃんは不機嫌にホッピーを呑んだ。

「ゲンちゃん、月曜から金曜まで呑んで、土日は来ないよね…逆じゃない?」

マスターは呆れ顔である。

「俺は仕事が早いんだよ!チャッチャカ終わらせるんだよ!平日は段取りだ!お前はいちいちうるせぇな!たまには美味いもん持ってこい!こんな干からびた焼鳥ばっかり出しやがって!バーロー!」

「ゲンちゃん!俺を怒らせるなよな!」

「お!なんだ!またやんのかよ!今度はビール瓶は無しだぞ!!」

ゲンちゃんはビールケースの椅子をずらして立ち上がった。


 彼等は以前取っ組み合いのケンカをしてゲンちゃんはマスターにビール瓶で頭を殴られた事があるのである。

「俺はねぇ、心配なんだよ!酒ばっか呑んで身体壊したらどうすんの?嫁さんは帰ってこないんだよ?」

「チッ!お前が俺の面倒を見ろ!」

「嫌だよ!汚いおっさんの面倒なんて見るのは!」

「お前しか居ねぇじゃんかよ!」

マスターは深い溜息をついた。


 キラキラと星空を間近で観ているような繁華街ー。

 行き交う人々はそれぞれのドラマを造っていて、皆が主人公である。

 それは、つまり平和である。笑っている人も時には泣いて、泣いてる人は明日には笑っている。そんな繰り返しでクルクル廻っているのが世の中である。


 イザは缶チューハイを呑みながら東照宮の前のベンチで肩を落としている。正面の木の下ではハト仙人は両肩に鳩を載せて残飯を食べている。それを見てイザは更に溜息をついた。


「おい!若者!!何をそんなに溜息を着いているだ!!下ばかり見てないで空を見上げろ!!美しい天の川が流れているだろ!」

ベロベロに酔ったゲンちゃんがイザに近付いて来たー。

 イザは“うわ!変なのが来た!”と思ったがゲンちゃんは隣に座ってしまった。


「お前さん!今うわっと思ったろう?そんなモノはお見通しだぜ!だがなぁ、お前さんみたいに若い奴がこんな夜中に一人です汚ねぇ奴等の住処で溜息なんてついてると、奴等も楽しく無くなっちまうよ!…だから!酒は楽しく呑め!立て!若者!そして着いてこい!」

ゲンちゃんはそう言ってイザの缶チューハイを奪って遠くへ投げた。そのまま、イザの肩を担いで立ち上がらせて歩き出した。

「止めてください!どこへ行くんですか?」

「天の川銀河だ!!」

ゲンちゃんは強引にイザをキャバクラへと連れて行った。

 

 薄暗くてあちこちで何やら怪しく男女がはしゃいでいる。ゲンちゃんはニヤニヤしながら廻りをキョロキョロと見渡している。

「ゲンちゃん!いらっしゃい!今日は休み?」

パツパツの赤いドレスを着た魅惑の天女がゲンちゃんの隣に座って密着した。

「今日は何処から連れてきたの?」

天女が言う。

「公園で溜息着きながら缶チューハイ呑んでたんだよ!だから、連れてきた!」

「なにそれ!うける!」

イザがたじたじしているとデブのブスが隣へ座った。腹が純白のドレスで締め付けられてチャーチューみたいになっている。

「うわ!すげーブスが来た!」

ゲンちゃんはイザに着いた女を覗き込んで大声で言った。

 イザは流石に初対面の女性に対してのゲンちゃんの言葉がムカついて立ち上がって拳を振り上げた。

「え!!お前酔ってないのかよ!よくアタイの事見えてたじゃん!」

ブスが笑いながらゲンちゃんに言った。

「バーロー!酔ってねぇ!」

「ベロベロで何言ってるか解んねぇよ!」

ブスが言ったー。


「んで!なんで立ってんだよ若者!」

「お兄さんお花畑?」

「純菜ちゃん、お花畑は女の子の便所の事よ!」

「レイカさん!便所って!」

「あ!おトイレね!」

「ちゃうちゃう!お・て・あ・ら・い!」

「てへ!」

「俺も御手洗と言った方が良いと思うぞ!」

「おっさん!汚い顔で何が御手洗だよ!便所みたいなくせして!」

「ブス!それは傷付くぞ!せめてトイレみたいな顔と言え!」

くだらない会話をしながらゲラゲラと笑っている。


 イザは溜息をついたー。


 嫁とケンカして下界へ出て来たのだが、嫁と造り上げた人間界がこんなになっているとは…直ぐに帰って嫁に謝って、人間界を造り直さなければと思った。


 ゲンちゃんはお会計してエレベーターホールまで見送っている天女とブスに頭を下げていた。

「ありがとな!楽しかったよ!またくるから二人とも頑張ってな!」

ゲンちゃんの言葉にブスが凄く嬉しそうにしていた。


 ゲンちゃんと二人で上野公園の方へ歩きながら星空を眺めたー。

「若者!付き合ってくれてありがとな!色々言って悪かったな!暗い顔してる若い奴を見てると黙っていられなくてな!ごめんごめん!」

ゲンちゃんは赤い顔をしながら照れていた。


 イザは反省した。

 この中年男はストレートに人を励ましている。それが誤解を生んだとしても生き甲斐なんだと…。


「自分はイザナギと言います。妻のイザナミと人間界を造りました…最近、妻とケンカして下界へ家出してきてた所です…」

ゲンちゃんは振り返ってイザの肩に手をかけて言った。

「直ぐに帰って嫁さんに謝れ!悪くなくても謝れ!手遅れになる前にな!早くけぇれ!!」

ゲンちゃんは千円札をイザに握らせて中央口のみどりの窓口へ連れて行った!

「元気でな!!嫁さんに謝れよ!また電車あるからな!神さまよ!色々言って悪かったな!元気でな!」

ゲンちゃんは馬鹿でかい声で言いながらゲロを吐いていたー。


 翌日ー。

 イザはイナに土下座した。

 顔を上げると強烈なビンタをされた。

 涙ぐんでるイナに再び土下座した。

「心配したんだからね!!」

「ごめんよ」

イナはホッとして微笑んでくれたー。

 朝ご飯を食べながらイナに下界のゲンちゃんの事を話して聞かせた。


「ゲンちゃん…今日も段取りかい?」

マスターがホッピーと馬刺しを持ってきた。

「おや!馬刺しとは!流石日本一の居酒屋だねぇ」

「調子いいねぇ!」

「今日は反省会だ!神さまをキャバクラ連れて行っちまったからな!」

「なんだいそりゃ!」

マスターと二人で青空の下の小さな居酒屋で大笑いしたー。


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺が悪かった!神さまよ!(笑) 門前払 勝無 @kaburemono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る