【クリーチャーズ・ハウス】Day5 「candle,butcher,sweet?」
動かないメアの死体の横にもたれかかり、退屈そうに肉切り包丁を弄んでいる燭台頭。「…遅ぇ。あんまり遅かったらオレ、コイツのことマジで解体して夕飯に出すぞ。」
彼が軽々と振る肉切り包丁は優に五キロは越えていそうなほど大きく重そうで、言葉通り今ソファーに転がっているメアの死体くらいならば軽く解体できそうな雰囲気はあった。
「……ミスター・デンジャラス。」
ふとローウェルの耳に届いたのは女の…しかもまだガキっぽい声。目線を上げた先には奇抜な服装をした人間が立っている。
「……テメェ…「キャスト」か。オレの機嫌が悪いときに話しかけるなって」
「勿論知っています。」
ローウェルの言葉を遮るようにして「キャスト」は言葉を続ける。
「ですが、もう四日間もご飯を作り終わればメア様の側に戻って身動きもしない…
大丈夫なのですか?ローウェル様。」
ローウェルは肉切り包丁を女の首元に突き付け、苛立ったような口調でまくし立てる。
「……そんなの放っといてくれよ、なあ? オレが動こうが動かまいが勝手だろ?…お前、キャストなら知ってるよな?「ミスター・デンジャラス」ローウェルの機嫌が悪いときに話しかけるなって。首ぶった斬るぞ。おい。お前、名前と勤続年数聞かせろ。」
「…私はアンリエッタ。ここに勤めて
もう3年になります。」
ローウェルはその言葉を聞くと彼女の首から肉切り包丁を遠ざけ、「…3年か。そこそこ長続きしてんな。…今回は見逃してやるから行けよ。…気が変わらねぇうちに行けって。さっさと行かねぇとマジで殺すぞ。」また先程と同じ姿勢に戻ると彼女を突き放すように足で蹴る。
「…失礼します。」
彼女が立ち去ってしばらくした後、無機質な音のクリーチャーズ・ハウス全域放送が掛かる。
『え~…診療所からの連絡です。マリーナちゃんの診察が終わりましたので、近場にいらっしゃる方は迎えに来てください。以上です。』
「…「ドクター」じゃねぇな、病気女か。…ちっとからかってやるか…。」
ローウェルはけたけたと笑い、メアの側を離れると診療所に歩を進める。
「…やあ、マリーナ。迎えに来たよ。」
ほんの少しだけあの大男の真似をしてやると診療所の扉が開いて「病気女」が顔を見せる。「病気女」はローウェルの顔を見るなり驚いて扉を閉めようとするがローウェルは肉切り包丁を隙間に挟んで無理やり止め、診療所へと侵入した。
「よお、病気女。」
「…病気女って何?私はこれ以上ないくらいの健康体よ。生まれてこの方怪我もしたことないし、病気だってしたことないわ。ほら、体にだって傷一つないじゃない。」
「…はっ!お前、自分の体鏡で見たことねぇのか?ボロボロじゃねぇかよ。どこが健康なんだ?どっからどう見ても「病気女」だぜ、テメェは。」
「病気女」クランケの瞳が鋭く細められ、じろりとローウェルを軽蔑混じりで見やる。
「…あ?やんのかテメェ。怪我増やして全治一年にしてやろうか。」ローウェルも肉切り包丁を構え、一触即発の雰囲気になった時、マリーナが静かに口を開く。
「…ローウェルも、クランケさんもやめて。私、ジョニーが来るまで外にいるから。」
ベッドから起き上がったマリーナの目の前に肉切り包丁の鋼が光る。
「…口挟むんじゃねぇよ、人形女。
お前も殺すぞ。」
マリーナはその場でぴたりと足を止めたが、それはただ目の前に障害物があったからとでも言わんばかりの何気ない調子だった。
「…マリーナ!」
と、ジョニーの心配そうな声が入ってきた。ジョニーはマリーナに肉切り包丁を突きつけているローウェルを笑顔の仮面越しに睨み、すぐさまマリーナと肉切り包丁の間に入るとマリーナを後ろに隠す。
「…ローウェル、マリーナに何をする気だったの?」
「はっ!その人形女が口挟んでくるから威嚇しただけだっての。そんなグズの人形女
殺したって楽しくもなんともねぇよ。さっさと連れてけ、邪魔だ。」
ジョニーはローウェルを睨んだままマリーナの手を引き、さっさと診療所を後にした。
「……ばいばい、ローウェルとクランケさん。」
マリーナは手を引かれながらもローウェルに手を振りながら立ち去っていく。
「…帰って、ローウェル。もう少しすれば「ドクター」が帰ってくるの。あんた、「ドクター」にこんな光景見せるつもり?」
「…チッ…つまんねぇ。冷めたから帰る。」
肉切り包丁をずるずると引きずりながら、診療所の扉がまた開いては閉まる。
またメアの死体の側にもたれかかったローウェルは目を開いたままのメアを眺め、
「……ずーっと起きてんだ。どんな酷い悪夢見てんだ?お前…。」
茶化すように笑うと座ったまま静かに眠りについた。リビングにはローウェルの寝息と時計の針の音だけが響いている。
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