十七日目


 料理をするのは承諾したが、されるのはしてない。ほんと勘弁。


「しかし今日はラーメンの口で……」


 わかるかなぁ? もうラーメン食べるモードに入ってるから他の何を食べても満足できない体になってしまったのだよ。あんだすん?


 おろおろと押されながらも主張してみた。妹のチョロさにワンチャン賭けて。


 ちなみに正座だ。場所がリビングからキッチンに変わっただけ。妹は兄の前で仁王立ち。額のバッテンマークがよく似合う。腕なんか組んで眉間にシワを寄せている。幼女は抱きつく場所を足から背中へと変更した。抱きつかないっていう選択肢はないのか?


「じゃあラーメン作ればいいでしょ? みんなで食べようっていうのに、なんでカップ麺になるの?」


 楽だから。


「好きなんだ、カップ麺」


 昨今の企業努力からカップ麺の味も向上してるし、いーでしょ?


 そこで俺の首を掴んで頭へと登ろうとする幼女の腹から再びの轟音。やや増し。


「おなか、ないない! あはは!」


 恥ずかしさよりも楽しさが勝っているのか、あまり気にならないようだがこれはかなりの腹ペコちゃんだ。目尻を掴むな。閃いた。


「それに早い方がいいかと思って、ですね、ええ」


 人の気持ちを考えた結果だと主張。これには妹も表情を変化させる。どんな感情かはともかく「うぐっ」って感じ。ざまぁ。


「……ならせめて袋ラーメンにして。あと絶対具材は入れてよ?」


 うっそ、袋ラーメンって最低ラインなの? 妹の中での普通が危ぶまれる。ラケットで兄を滅多打ちは普通じゃないからね? だからといってバットに持ち替えりゃいいってもんでもない。わかるか?


 やれやれ、ここは妥協しておくか。


 でないと幼女の重みで俺の首が折られかねない。キミキミ、髪を引っ張らないでくれるかね?


 立ち上がるついでに幼女を掴む。


「きゃあ〜〜〜〜あはは!」


 悲鳴を上げたいのはこっちだ。


 逃れまいと髪にしがみつく幼女を引っ剥がし目を合わせる。指をワキワキさせてるのは、くっついた黒い糸を払うためかな?


「ご飯作るから、妹ちゃんに遊んで貰いなさい」


「あい!」


 元気のいい返事だ。何故こちらに向かって手を伸ばしているのかは置いといて。


「じゃあ包丁使うからよろしく」


「はいはい。じゃあ、モイちゃん。お姉ちゃんと遊ぼっか?」


「あい!」


 キャアキャア言いながらキッチンを出ていく女ども。これよりここが聖域か。いや待て? 家族がご飯を食べれなくなって外食するまで読めた。やはり自分の部屋が一番だな。帰ろう。


 なんて廊下に通じる扉を開ければ、いい笑顔の女ども。グルッと回ったんすね? 外からという意味じゃない。共犯って意味だ! あんなに遊んであげたのに! この幼女!


「どうしたの? 兄さん」


「さー!」


 ヤバい、兄さん呼びだ。あとサーじゃない。


「袋ラーメンどこかなって?」


「カップ麺の隣の戸棚」


「ありがとう」


「とー!」


 手を振る幼女に別れを告げて、再び閉められる封印。ここを死地とするしかないようだ。お外怖い。


 仕方なく鍋に火を点けて袋ラーメンを戸棚から取り出す。三人分。袋三つ星三つ。


 冷蔵庫を開け卵とキャベツ、チャーシューとメンマを取り出す。よく置いてあったな?


 野菜を洗い、包丁を取り出して千切りにする。千切りに、千切りする。更に千切り。するとどうだ、キャベツの山が出来上がる。


 ついでとばかりにチャーシューをスライス。一人二枚。残りを冷蔵庫にぶち込んでいる間にお湯がコポコポと音を立て始める。


 袋を開け、鍋に麺をぶち込む。この隙にドンブリを三つ用意して、海苔を先に入れておく。海苔が溶けていい感じにラーメンと絡むだろうし。


 麺がやや固い状態でスープの素を入れ、更に卵もぶち込んで溶かす。スープの色がほんのり黄色。いい匂い。適当なところで火を止めてドンブリに三等分。メンマとチャーシューと山盛りキャベツを乗せたら完成だ。おあがりよ。


 部屋の外での二度手間は嫌いなので、箸とレンゲを一つずつぶち込んで準備完了。持って行こう。


 両手に一つ、頭に一つ、ドンブリを載せて足でリビングの扉を開ける。


「できたぞー」


「あはははははは!」


「なんて持ってきかたしてんのよ?!」


 ああ、やはり……。


 お茶と炭酸飲料ですよね? わかります。


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