九日目


 早過ぎたんだ。


 孵るのが。


 違った。帰るのが。


 どういった心境の変化なのか妹が家に友達を連れてきた。


 つまり本物の女子中学生だとぉ?!


 握手してサインねだったら通報されちゃうというあの?!


 なんという事態だ。こちとら後ろに手が回るような事とは生まれてこの方縁がないというのにっ! くそっ! 俺の平和な引きこもりライフはどうなっちまうんだ?!


 どうもならない。


 とりあえず音を立てない為にも、妹達がリビングか妹の部屋に行くのをこのままやり過ごそう。


 そう思って顔を引っ込めた瞬間、見知らぬ女子が階段に飛び込んで来た?!


「ちょっと!」


 ちょこれいとお?!


 叫んだのは妹、甘いのは俺だ。


 階段の上は暗いこともあって視線が合う事はなかったが、びびびびっくりしたあ?!


 視界ギリギリで腕を掴まれてるのが見える。ナイスマインちゃん! お兄ちゃん知らない人と接触とか死んじゃうところだったよ! 相手が。


 実績は既に昨日見せているので、マインちゃんも警戒してることだろう。あれは相手が悪かった。色んな意味で。


「いや〜、やっぱり噂のお兄さんに挨拶がいるかなって」


 いらない。持って帰ってくれ。うちは挨拶お断りなんだ。


「ふざけないでよ。今日は遊びに来ただけだったでしょ?」


 妹様は相変わらずご機嫌が麗しくない。いつも通りってことだ。良かった。


 知らない女子中学生はマインちゃんと同じ制服を着て、髪をサイドテールに纏めている。背もどっこいどっこい。活発的なタイプと見た! 苦手なタイプだ……。


 得意なタイプも無いけどね!


 エヘヘ笑いしながら舌を出しているところを見るに、あざとさ学習中の敵性で間違いない。


 うちになにしにきた!


 遊びにだ。知ってた。


 チラリ視線を階上へと伸ばしてきたので、見えてないとは思いつつも闇と同化する。中三は向こうだ。俺じゃない。


「でも今居るんでしょ? いーじゃん。挨拶くらい」


 バカ言え。挨拶なんてそんなハードル高いこと軽々にできると思うなよ?


「いつも居るわよ。ダメ。ダメったらダメだから。いいから行こ! あたしの部屋ね!」


 グサッときた。ダメって行っちゃダメの方だよね? ダメなのが居るって事じゃないよね?


「あ〜ん、いけず〜」


 行けず。ざまぁ!


 ズルズルと引き摺られていく知らない人を見送って、そろりそろりと歌舞伎役者ばりに足音を殺して部屋に引き上げた。


 ふぃ〜、間一髪。


 二度寝をしてたらヤバかった。食糧確保の際に鉢合わせもあり得た。


 やはり部屋の外は危険が危ないな、全く。


 布団を被ってガタガタと震えるか、押入れに籠もってガタガタと震えるか、知恵の輪を持ち出してカチャカチャと弄くるか、ヘッドセットを付けてカタカタと笑うかの四択。


 いや音出しちゃダメだろ?


 あちらはこちらが常に部屋にいると思ってやがるからな。なんて失礼な話だ。外出中だったらどうするのかね? 部屋の主も居ないのに部屋に入ろうだなんて、そりゃもう不法侵入ですよ。結局通報か。引きこもりとは切っても切れない。そりゃないよぉ。


 何故か捕まっているのはいつも俺。


 お宅の平和の為にも、ここはヘッドセットを付けて布団を被り音を殺す、で。間違いない。パフェな選択。ごちゃまぜと完璧の意。あまーい。


 早速ヘッドセットを付けてピックアップしたアニメのタイトルを画面に流す。スマホ片手に布団を被れば、あら不思議。まるで引きこもりのヲタクみたいなのが完成だ。ふふふ、実際は自宅警備中の日本発祥の文化を探究する学徒なのにね? おっかしー。ポレチのことか?!


 キャンプアニメを見つつ、俺も部屋で似たような事やってるからもしや俺もキャンパー? というお決まりの勘違いに至ったところで――――不穏な気配?


 ヘッドセットは片耳をズラし、外の音も拾うようにしていたので気付いた。いつもと違う対応なのはお察し。だって身内じゃない人が家にいるんだよ? 警戒しないのは危機意識が足りない。


 トイレかな?


 妹の足音じゃない足音が廊下を進み……階段の前で足を止めている。


 ……よせ、バカ、やめろよ?


 望み叶わず、足音を殺しているつもりの足音が、ギシギシと階段を上がってくる。


 活発的っていうか悪戯好きなタイプだったらしい。


 苦手なタイプだ。


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