八日目
ケガなんてお手のものさ。何故って? 引きこもりだから。
あああああああああああああい!
おはよう。
ところどころに拵えた青タンが漢の証。なら漢じゃなくて男でいい。たって痛いんだもん。
マインちゃんの愛を受け止めきれないってハッキリ言ってるのに執拗に押し付けてくるんだからもう。やれやれ、モテる男はツラいよねぇ〜。
いつもの布団、いつものスウェットだ。
ゴロリと起き上がると脇腹が痛い。六番と七番を持っていかれたか……!
脇腹を押さえながらニヒルに笑う。ふっ、この程度で、俺を止められると思うなよ? デンプシー持ってこい! そしたら全力で逃げてやる!
体にムチを打って起き上がり、自室の扉を開く。
怪我を治すのにもまずエネルギー。お腹が減るのはしょうがないんだ。酸素から二酸化炭素を錬成するのに必要だから。
しかし扉の向こう側に食事は無かった。
お札も無い。
どどどどういうことだ?!
悪しき派遣社員を倒した英雄に対する所業じゃない! 断固抗議するぞ! 部屋での籠城も辞さない!
ズダダダと階段を降りてキッチンへ。
まずは兵糧の確保だ。どうせ兵糧責めなんでしょ?
残念だが俺は家の中へと行動範囲を広げているハイブリッドな引きこもりなのだ。食糧の安定供給はお手の物。ジャガイモのお菓子と黒い飲料水は常備している。半年は生き抜けるさ! 切れたら死ぬ。助けて。
常備されている食パンを袋ごと掴んで、冷蔵庫の扉を開ける。
ハムとマーガリンを頭に積んで魚肉ソーセージを握ったらバタン。
準備は整った。
綺麗に片付けられているキッチンを素通りして部屋に戻る。
扉を閉めればシャングリラ。さあ、俺と同化するがいい!
簡単なサンドイッチにしてムシャリ。飲み物は常備されてる黒い水で事足りた。
キタキタキタキタァァァァ!
全快!
肉食うだけで治る主人公には及ばないが、炭水化物と炭酸飲料を合わせればこの通り。血糖値爆上がり。寿命に注意。
脇腹に巻いていた包帯を……包帯を……あれ? ああ。包帯なんてしてなかったな。うっかり。
よし、完治。
手早くゴミを片付けて再びゴロリ。布団の上で青春を謳歌する。まずは携帯でウェブコミックから読もう。最新話の更新チェックと発掘作業。一日仕事の巡回だ。おすすめが知りたいだって? 任しておけ。おすすめサイトから拾って如何にも知ってましたを装ってレビュー。
叩かれるまでがワンセット。
普通ならケガしたら憂鬱になる通勤や運動も、引きこもりならこの通り! リラックスした状態で臨めるからオススメ! 注、諸説あり。
一通り終えた頃には昼になっている。
ああ、現世では夕方って言うんだっけ?
俗世に悩まされない、それもまた解脱した者の特権って言える。げだつね、げだつ。リタイアって当てないように。
ちょっ、この小説危険だ! 俺の瞳の中の水晶体が萎んでやがる?! お代わりだ!
泣き小説にまんまと嵌められた。こいつ……引きこもっている俺を泣かせるとか……やるやん。しかしまだまだだ! 某有名漫画の序盤に比べたら。あれ何十回とループしてんのに未だに泣けるんだから尊い。俺が弱いとかそんな筈はない。幼少期に飼っていたセミが死んでも泣かなかったぐらい冷酷なので。
今度は一転。腹が捩れるほどに笑い転げて涙がポロリ。やるやん。へー、そうくる? やるやん?
笑いを噛み締めてバンバン床を叩いていると、ガチャリ、玄関の鍵が外れる音にピタリ。
魔王様のおかえりだと?! バカな! まだ早い!
思わず時計を確認するも、これは部活をサボった可能性が高し。全く、学校をなんだと思ってるのやら……やれやれ。
念の為ドロボーではないかと確認するために扉を開けて廊下へ。角からソッと顔を出して階下を確認。
まあ、どうせいるのは女子中学生もどきだろ? ワンパンですよ。勿論俺が。
へっ、と自嘲気味にフラグを立てつつ聞き耳を立てる。
すると聞こえてきた、マインちゃんの声。
「ただいまー」
アーンド。
「お邪魔しまーす」
緊急警報。
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