二日目



 さて、これじゃあいくらなんでもあんまりなので、もう少し詳細に俺の1日を紹介していこう。




 昼に起きる。


 時刻は……バラバラだ。引きこもりには時間という概念があまり存在しない。起きたい時に起き、寝たい時に寝るという、究極の健康法を実施するプロフェッショナルだからだ。ストレスフリー。お試しあれ。


 うん、次にいこう。ここはそんな重要じゃないし。


 昼早く起きた俺氏。まず最初にする行動は――――二度寝だ。


 体が睡眠を欲しがっているので、素直に与えてやる。俺じゃないんです、俺の体が悪いんです!


 十分に欲求を満たした俺はおもむろに起き上がる。こうして引きこもりの1日は始まる。


 まずはエネルギー補給が必要だ。1日の活力を決める大切なガソリン。朝ご飯を食べる。これを抜くのは良くない。ダイエットだ朝は入らないだと言う輩が多いこと多いこと。全く、不健康な奴らだね〜。


 俺はそんな奴らとは違い、キチンとご飯をいただく。


 扉を開けば用意されている朝ご飯。親の愛だ。最近は会話を全くと言っていいほどしていないが、これが何よりの物的証拠だろう。


 少々冷めているが、チンすれば解決。しかし電子レンジは台所にあり、俺の部屋は二階。


 温めるのを、諦めよう。


 お盆ごと部屋の中に招き入れ、冷めた親の愛を頂く。


 フルチャージ。


 勿論のことだが米粒一つ残す気はない。米農家の方に失礼過ぎるだろ。……あ、ニンジンが細かく刻んで入ってるよ。除去しなきゃ。


 赤い悪魔を退けた俺は食器を片付ける。当たり前だ。部屋に置いておくなんて虫が湧いてしまう。俺は綺麗好きなんだ。


 廊下に食器ごとお盆を出す。


 ミッションコンプリートだ。赤い悪魔が虫を召喚する前に追い出すことが重要だ。


 さて食事は終了だ。次は毎日の習慣に移るぞ。


 部屋に備え付けてある冷蔵庫を開く。ツードアの下だ。固まる方じゃ無い方だ。


 冷蔵庫は一面にコーラが入っている。全部スタンダードなコーラだ。ペプシは認めない。ゼロはコーラではない。


 やや悩むが500mlのペットボトルとダンボールに入っているポレチを掴む。今から頭脳労働をするので塩分と糖分が大事だ。俺に抜かりはない。


 取り出した分を冷蔵庫に貼り付けられているメモに記載する。月に一回の物資調達を母さんに頼むのでメモをしている。完璧だ。ドアの下の隙間から出すのがクールだ。


 布団の上に戻った俺は、手の届く位置にコーラとポレチをセットする。勿論、綺麗好きな俺はウェットティッシュとタオルも設置。手のベタベタはパソコンには致命的だからな。


 さて、既にフル稼働のパソコンのマウスを握る。常に動いている相棒が俺の激務を物語っている。さしずめコックピットでコントロールレバーを握っている主人公と言えば、分かるだろう? いや俺は分からんけど。


 最初はパトロールからだ。平和のために。


 主要なサイトからウェブ小説・漫画、アニメの考察からドラマの批評までと一日仕事だ。特に小説はヤバい。新しく頭角を表してきたのが見つかると一週間とか余裕で潰れる。いいだろう、かかってこい! 俺は負けない!


 激しい闘いを終えた俺は片付けを始める。綺麗好きだから。


 本当は布団なども干したいところなのだが、太陽がちょうど沈み始める時間なので無理です。無念だ。ずっとカーテンを閉めているので分からないが、きっと晴れてるんだろうな。だって俺の部屋の電灯はいつも煌々と晴れてるし。だいたい太陽が昇っている時間が短いのが悪い。


 つまり世界のせいだ。やる気見せろよ世界。


 世界と違って俺のやる気十分。ここからはフェイズ2に移行する。


「ただいまー」


 甲高い声と共に妹が帰ってきた。グッタイ。偶に自分の実力が恐ろしくなるよ。恐い程にクライ。別に俺の性格が泣けるとかではない。


 二階には俺の部屋しかないが、気遣い屋な俺は家族が家にいる間はステルスモードへと変わる。


 撮り溜めたアニメを再生、ヘッドホンを装着。さあ俺のことは気にせず、先に行くんだ!


 共に笑い、共に泣き、共に怒り、偶に食べ、もう俺も二次元の一員なんじゃないの? と考え出したところで本格的に腹が鳴る。エンプティ。暴走準備段階だ。動いてよ! って言われちゃう。断る


 エネルギー切れだ。


 ポレチとチヨコレイトで騙し騙し繋いできた腹が限界を迎える。俺ほど上手く体を使える引きこもりもいまい。


 ここは特に重要だ。


 働かざるもの食うべからずなんて言葉があるぐらいだ。西オゥさん的に言えば人が動くと書いて働くだそうなので。だから俺氏、働く。間違ってない。


 ヘッドホンを外してドアに耳をつける。ヘッドホンは音をよく聞くための枷。外した時の俺の聴力は人類を超える。俺の自己鍛錬への賞賛はやめてくれ。当然のことをしたまでだ。


 五分は様子を見る。……よし大丈夫。人気ひとけはない。


 こっそりと音が鳴らないようにドアの鍵を外す。夜だからな。マナーだ。別にビビッてるわけじゃない。勘違いしないでよね! ゆっくりとドアを開け左右を確認する。人影なし、前方に食糧を発見。


 食糧の確保は戦いにおいて、その勝敗を分かつことすらある。俺は毎日怠らない。敵? 人生は戦いだという言葉がある。つまり常に戦っている俺はソルジャーと言える。


 お盆を素早く確保してドアを閉める。ここの速さが重要だ。計ったことはないのだが、多分ギネスも総ナメにしていると思う? よせやい。


 食事を取りながら今度は某掲示板の勇士達を覗く。コメントも楽しむ俺は上級者だろう。


 食事が終わったらいつもの片付けだ。食器を廊下に出し……ふむ、コーラは1Lにしよう。


 デザートに再びチョコレイトを食べながら深夜アニメを見る。時刻は今日から明日へと変わりそう。そろそろ1日の終わりが近づいている。


 大体のアニメのチェックと録画の見直しをしたら1日の終了だ。しかし眠気が訪れていないのに寝るなんて時間の無駄遣いはしない。惰眠を貪る気はない。


 勤勉な俺は携帯ゲームのスイッチを入れる。眠りに落ちるギリギリまで時間を勉強に使う俺は学究の徒であると云えよう。


 煌々とパソコンの灯りに照らされて、イヤホンを耳にゲーム画面を見ながら眠るのが俺の1日終わりだ。


 今日も特に何もなかった。


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