第6話
「悪いな、杉山って私鉄だろ?」
「いえ、タクシー拾いますから。それに、川浪さんから答えをもらっていませんし」
複雑な顔をした杉山が隣に座りながら言う。
「まったく、強情だな。ほっとけばいいのに」
「機会は逃したくないんです」
「明日でもいいだろ」
呆れながら言う。
「よくないですよ。明日になったら、もっとはぐらかされて聞けなくなるか、僕を避けるでしょ」
「アハハ」
乾いた笑いが出る。
どんぴしゃで怖いぐらいだ。
なぜ、ここまで人の行動がわかるのか……。
そこまで考えた時、何かが引っかかった。けれど、隼大が降りる駅をついた事を告げるアナウンスでかき消されてしまった。
ベットタウンの駅構内は、サラリーマンやスーツ姿の女性が目立つ。
電車から降りる人の波に押されるようにプラットホームを踏んだ。電灯と雑踏の駅構内から出ると、静けさと暗闇が体を包む。
本当なら、気が滅入る所だ。しかし、今はそれどころではない。
隣には、話さないと家まで押しかけてきそうな杉山がいる。
その杉山は、周りをキョロキョロと見渡していた。
「どうした?」
「いえ、ここは来たことがないので、なんか新鮮で」
好奇心顔で言う。
堂岡が大型犬なら、杉山は、小型犬だろう。
犬に例えるなら、パピヨンに似ている。
「タクシー拾うから、帰れよ」
パピヨンに似た目をくりっとさせながら周りを見ている杉山に言うと「帰りません」と、すかさず返って来た。
どうしたものかとため息がでる。
近くにあるファミレスは、この時間だと閉まっているだろう。
空を見上げると、淡い藍色の空に幾つかの星が瞬いている。その煌めきを見ながら杉山のしつこさに負け、言うことにした。
「そうだ、寝られないんだよ」
愛想もそっけんもない声だと自分でも思う。言わなければ、杉山は、帰らない。これ以上、帰るのが遅くなっては明日に差し支えてしまう。
仕方がないと自分に言い聞かせて自分の状況を露土した。
「気がついたら、眠れなくなったんだ。寝ようと思えば思うほどに目が冴えてくる。うとうとしてもすぐに、気がついてしまって、それ以上寝ることを脳が拒んでくる。だから、最近はもっぱら睡眠薬のお世話になってるよ。お酒で以前は寝られていたんだが、今は、寝られない」
これでいいか、と問うように彼を見た。
杉山は、大きな目を見開き、瞬きすらせずに、こちらを見ていた。
隼大でなく、その後ろを見ているかのようだった。
杉山の顔の前に手のひらをかざす。大丈夫か、と言おうと口を開いた途端に、目が合った。杉山は、隼大の方を向くと、一歩、詰め寄りながら言った。
「杉山さん、俺を家に上げてください!」
急に何を言い出すんだ。
急な展開について行けず、狼狽えた。
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