第3話

 オフィスビル街を抜け、商店街が建ち並ぶ通りも、シャッターが降りているところがほとんどだ。歯抜けのように、店の光が歩道を照らす。商店街と街路樹の間の歩道を歩く。

 いつもの道。けれど、今は、隣に誰かがいる。人と関わりをあまりこのまない隼大だったが、軽やかに笑い喋る杉山の声は心地良いものだった。

 杉山は、社員食堂の味が普通なのに、値段が高い。だとか、家にいる柴犬が可愛いという惚気を道すがらしゃべっていた。隼大は、「そうか」とか相槌を返すだけだ。

 よくこれだけ喋ることがあるものだと、呆れ半分と尊敬半分で聞いていた。


 ふと、視線の先にいつもよるコンビニがあった。

「川浪さん、ちょっとコンビニ寄っていいですか?」

「え? ああ」

 驚いた。


 こちらの考えが透けて見えたようなタイミングだった。


 杉山を見ると、コンビニの方を向いていた。

「いつも、帰りはここに寄るんですよ」

 笑顔でこちらを向いて答えてくれる。

 何も聞いていないのだが、こちらの聞きたいことがわかるように。

「そうか。同じだな」

 それだけ言うと、杉山に並び、煌々と灯りが照る、店内の自動ドアを抜けた。


 店内は眩しくて、目を細めた。段々と目が慣れてくる頃、すでに、杉山は自分の欲しい商品を手に取っていた。

「家飲みかい?」

 手にもっている燻製スルメを見ながら言った。


「今日は、です。毎日飲んでるわけじゃないですからね」

 言い訳をするように、早口で言い「川浪さんは、何を買われるんですか?」と話をかえてきた。


「夜食と、今日は水をね」

「水ですか?お酒じゃなくて?」

 意外だという顔をこちらを見てきた。


「寝る前の一杯のためさ」

「それを言うなら、お酒でしょう。その体型維持のためですか?」

「体型は関係ないと思うけどな」

「いやいや、寝酒は危険ですよ。僕なんて、お腹がやばいです」

 勝手にうんうんと頷き、お腹をさすっている杉山を思わず、こ突きながら言う。


「君の年齢で、体型もなにもないだろ」

 笑いながら言うと、しかめっ面をした。


「そうでもないですよ。脱げないです」

「誰に脱ぐんだよ。彼女か?」

 言うが早いか、鋭く睨まれてしまった。

「すまん、すまん。水は寝酒にね」

 杉山は首を傾げた。

「ロックの水割りに。今日買って凍らせておいて、後日使うのさ」

「全部ですか?」

「半分は、普通に飲むかな」

「ああ、なるほど。じゃあ、今晩も飲まれると」

 ニヤッと笑いながら聞いてくる。


「そうだな。飲んで寝られたらいいのにな」


「え?」

 最後の一言は、ほとんど独り言みたいなものだった。気が抜けていたというしかない。要らないことまでしゃべってしまった。

慌てて「気にしないでくれ」と言い、杉山が何かを聞いてくる前に、レジへと足を向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る