第17話 厄介な訪問者

 私は、今日もごろごろして過ごすつもりでした。

 部屋のドアが壊れて、別の部屋に移っても、私の生活に特に変化はない。そう思っていました。

 しかし、私の平和な日常を乱す存在が現れました。現聖女であるフェルムーナ・エルキアードが、私を訪ねて来たのです。


「で、何の用なんですか?」

「実は、あなたに相談がありまして……」

「相談……残念ながら、私はそういうのは苦手なんです。帰ってもらっていいですか?」

「シャルリナ、そう言わずに聞いてあげて」

「はあ、まあ、お姉様がそういうなら聞いてあげるだけはいいですけど……」


 フェルムーナ・エルキアードとの話し合いには、お姉様も参加してもらっています。

 というか、お姉様から同席させて欲しいと言ってきたのです。きっと、私をフォローしようとか、そういうことを考えているのでしょう。

 お姉様は、とても優しい人ですね。そういう所が、私は好きです。

 でも、今回に限って、その優しさは引っ込めておいて欲しかったですね。フェルムーナ・エルキアードは絶対に面倒なことを言ってきますよ。


「おほん。それでは、言わせてもらいますけど、聖女の仕事って、大変過ぎではありませんか?」

「え?」

「私、もう耐えられませんわ。いくら理想があったからといって、あんな大変な仕事はできません」


 彼女の言葉に、私は少し驚きました。

 意外と、根を上げるのが早いんですねこの人。あれだけなりたいとか言っていたんですから、もう少しくらい頑張るかと思っていたんですけど。

 まったく、私でももう少し頑張ったというのに、根気がない人ですね。あんなに鬱陶しい絡み方をしておいて、すぐにこれなんて信じられませんよ。

 まあ、でも、少しすっきりしました。現実を知って、いい気味って感じです。やっぱり、理想ばかりでは、駄目なんですよ。


「……まあ、あなたに耐えられなかったというなら仕方ありませんね。やめればいいんじゃないですか?」

「やめる……確かに、それも一つの選択ですけど、私は別の手段に頼るべきだと思っています」

「別の手段?」

「聖女の待遇の改善を求めるべきだと思うのです。あなたの力を貸していただけませんか? 一緒に、聖女の職務を正しい方向に導きましょう」

「うわあっ……」


 そこで、フェルムーナ・エルキアードは立ち上がりました。

 また、甘っちょろい理想論を振りかざそうということですか。ああ、面倒くさい。

 少し言うくらいで改善するなら、誰も苦労しませんよ。こういうのは凝り固まっていて、ちょっとやそっとじゃ変わらないものなんです。

 それをどうにかしようなんて、面倒じゃないですか。何より、どうして私がそんなことをしなければならないのでしょう。


 苦労して、もし聖女の待遇が改善しても、私には利益がないじゃないですか。得するのは、この人やこれから聖女になる人達です。

 なんか、それってむかつきます。私も苦労したんですから、先の人達も苦労してくださいよ。不公平じゃないですか。


「残念ですけど、私はそんなことはしたくありません」

「え?」

「あなたが勝手にやってください。私、もう聖女とかそういうことには関わらないと決めているので」


 私は、きっぱりと断ることにしました。

 早く帰ってくれませんかね、この人。

 ああ、でも、ここからさらに食い下がってくるんでしょうね。聖女だった時も、勝負しなければどうとか変なこと言ってきましたから。


「何を言っているんですか! この国の未来がかかっているのですよ!?」

「未来とか、正直どうでもいいんですよね。それって、私には関係ないじゃないですか」

「人々の未来のために、働きかけようとは思いませんの?」

「ちょっと、最近、体調が悪くてですね……」


 説得は無理そうですね。ここは、体調不良でやり過ごすしかありません。

 こういう理想ばかり掲げる人って、嫌ですね。対応が、面倒くさ過ぎます。

 自分が正しいとか思っているから、説得のしようがありません。こういう時に無難にやり過ごすには、どうしたらいいんでしょうか。


「あの……少しいいかな?」

「え?」

「あら?」


 そこで、お姉様はゆっくりと口を開きました。

 どうやら、何か言いたいことがあるようですね。

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