第55話 見抜けた訳
私とエルード様は、馬車に乗っていた。
ゲルビド子爵家との話し合いは終わったため、ラーファン家の屋敷に帰っているのだ。
「……よくわかったな」
「え?」
「俺には、あの男との心などまったくわからなかった。それを見抜けたお前は、大した奴だ」
馬車の中で、エルード様は私のことを褒めてくれた。
だが、私は褒められるようなことはしていない。謙遜ではなく、これに関しては、本当に私は大したことをしていないのである。
「私と同じ立場だったら、誰だってわかると思います。彼の目を見ていれば、すぐにあの気持ちを見抜けるはずです」
「そうなのか?」
「ええ、私を真っ直ぐに見ているのに、見ていない。彼は、そんな目をしていました。それが、母の話をしている時だったので、すぐに理解できました」
私と同じ立場だったなら、誰でも彼の心は見抜けたはずだ。
あんな目をされれば、誰だってわかる。それ程までに、彼はわかりやすかった。それ程までに、母のことを愛していたということなのかもしれない。
「それに、家に帰ってくる母の顔を知っているので、わかったのだと思います。ゲルビド家で働いていた母は、辛い顔をしていませんでしたから」
「ほう?」
「今までは、きっと強がっていたのだと思っていました。私に疲れた顔を見せないようにしていたのだとそう思っていたのです。でも、きっとそうではなくて、それ程不当な扱いは受けていなかったから、そういう顔ができたのではないかと思ったのです」
家に帰ってくる母の顔は、とても明るかった。
不当な扱いを受けていたのなら、あんな顔はできないはずである。
そう思ったこともあって、私はボドール様の思いを見抜けた。つまり、私の立場なら、あれは絶対にわかることなのである。
「……それでも、俺はお前のことを評価する。例え、俺が同じ立場だったとしても、あの男の思いなど見抜けなかっただろう」
「……そうなのでしょうか?」
「お前のように優しい人間でなければ、見抜けなかったはずだ。だから、俺はお前のことを尊敬している。本当に強い人間というのは、きっとお前のような奴のことをいうのだろうな……」
エルード様は、少し自嘲するような笑みを浮かべていた。
彼は、自分と比較して、私をすごいと思ってくれているようだ。
もし彼にそうだとしても、彼がこんな表情をする必要はない。これが、私にしかわからなかったことだとしても、他の面で彼は優秀な人間だからだ。
私は、エルード様のことを尊敬している。貴族というのは、彼のような気高き人だと認識している。
それを口に出そうと思ったが、やめた。それを言っても、彼の感情を逆なでしてしまうだけのような気がしたからだ。
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