第33話 彼女を変えたもの
私は、母の身に起こったことをエルード様から聞いていた。
祖父母は借金を背負ったことで、母とともに一家心中を図った。だが、母だけは助かったようである。
それは、もしかしたら、不幸なことだったのかもしれない。両親を失い借金を背負った母は、とても辛く悲しい人生を歩まなければならなかったのだから。
「……それから、お前の母は借金の返済をすることにしたようだ。その経緯までは、俺にもわからない。ただ、死ぬ気はなかったようだ」
「……そうなのですね」
「意外なことではあるが、当時のゲルビド家の当主は借金の催促をやめたらしい。何か思う所があったのかもしれないな」
「その人には、まだ人の心が残っていたのでしょうか……」
母は、生きることを選択したようだ。もちろん、私がここにいる以上、それは当然のことである。
だが、その時、母は何を思っていたのだろうか。両親の元に行きたいとはならなかったのだろうか。
その胸中を私が知ることはできない。母とはずっと一緒だったのに、知らないことばかりである。
「お前の母は、その過程で、お前の父と出会った。出会った後は、先程述べたとおりだ」
「そうですか……」
母は父と出会い、私を授かった。
それは、彼女にとって幸福なことだったのだろうか。
「……それから、お前の母はゲルビド家に必死に頼み込んで、働かせてもらうことになったようだ。当時のことを知っている元使用人によると、その時の彼女はとても生き生きとしていたらしい」
「生き生きと?」
「ああ、その遺書に書いてあったかもしれないが、お前の母はそれまでそれ程明るい女性ではなかったようだ」
「明るい女性ではなかった。そういえば、そんなことが書いてありましたね……」
そこで、私は遺書に書いてあったある記述に注目した。
ゴガンダ様は、母が儚い雰囲気がある女性だと思っていたようだ。
よく考えてみれば、それは私の知っている母ではない。
母は、明るく優しい女性だった。そんな母は、儚いと表現されるような人物ではないはずである。
だから、昔の彼女は私の知っているような性格ではなかったのだ。正反対の性格だったのである。
「お前の母は、お前の存在によって変わったのだ。推測に過ぎないが、お前の存在が生きる希望になっていたのかもしれないな……」
「私が……」
母が変わったのは、私がいたから。そうだとしたら、こんなにも嬉しいことはない。
苦しい人生の中で、明るくなれたのが私のおかげならば、生れてきてよかったと思える。
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