第25話 戸の前での攻防
私とエルード様は、シャルリナ様の部屋の前まで来ていた。
部屋から出てこないなら蹴破るというエルード様に、彼女は戸の前にいると言って牽制した。妹を傷つけられないと思って、そう言ったのだろう。
「愚か者が……この俺が、その程度のことを恐れると思ったのか?」
「え?」
「お前が部屋から出てこないのが悪いのだ。俺はそれも厭わない」
「ぐっ……」
だが、エルード様も一筋縄ではいかない人だった。
彼は、言葉とは裏腹にまったく構えていない。恐らく、これははったりなのだろう。いくら妹が言うことを聞かないからといって、傷つけようとは思っていないようだ。
彼は、言葉だけでこの戸を開けさせようとしている。これで、シャルリナ様が戸を開けると考えているようだ。
「ならば……蹴ってみればいいではありませんか?」
「ほう?」
「遠慮せず蹴って、可愛い妹を傷つけて後悔すればいいのです。ほら、蹴ってみてくださいよ?」
「……」
だが、シャルリナ様はまだ粘っていた。
彼女は、エルード様を信じているのだ。妹を傷つけることはないと。
なんというか、二人は本当に仲が良いのだろう。このやり取りを見ていて、それがまた理解できた。
微笑ましい。素直に、私はそう思っていた。年は離れているが、二人はいい兄妹関係を築いているようだ。
私には、兄弟はいない。だから、二人のような関係には少し憧れがある。なんというか、少し羨ましいのだ。
「ふふ……」
「む?」
「え?」
「あっ……」
そんなことを思って、私は思わず笑みを漏らしていた。
それにより、エルード様の視線が向いてくる。恐らく、シャルリナ様も私のことを気になっているはずだ。
あまり言いたくはないが、何故笑ったか話さなければならないだろう。そうでなければ、二人も納得してくれないような気がする。
「あ、すみません……お二人が、仲良さそうにしていたので、つい笑ってしまいました……」
「仲が良い?」
「え?」
私の言葉に、エルード様の視線が少し鋭くなった。シャルリナ様の声も、少し困惑しているような声になっている。恐らく、少し恥ずかしがっているのだろう。
やはり、言うべきではなかったのだろうか。だが、言わなかったら言わなかったで、ややこしいことになっていたはずだ。なんというか、中々難しいものである。
とにかく、私のせいで変な空気になってしまった。ここは謝って、早く話を戻してもらった方がいいだろう。
「あ、えっと……すみませんでした。私のことは気にしないで、どうぞ続けてください」
「……」
「……」
「え? あれ?」
私の言葉の後、ゆっくりと部屋の戸が開かれた。
あれ程、戸を開けなかったシャルリナ様が自ら戸を開いたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます