第17話 覚悟を決めて

 私は、サリーハ様の元から去って、ある部屋の前まで来ていた。

 ここが、スレイナ様が待っている部屋であるらしい。


「さて、覚悟……いや、心の準備はできているか?」

「え? 覚悟……?」


 部屋の前で呟いたエルード様の言葉に、私は少し怖くなってきた。

 覚悟などというと、滅茶苦茶怖い。やはり、スレイナ様はそういう人物なのだろうか。


「言葉の綾だ。俺の見解では、彼女は怖い人ではない」

「それは、エルード様の見解ですよね?」

「父上の言葉で心配になっているのかもしれないが、本当に大丈夫だ。スレイナ様は、優しい人だ」

「え? あ、はい……」


 エルード様の言葉に、私は思わず頷いていた。

 それは、彼の言葉に違和感を覚えて動揺したからである。

 今、エルード様はスレイナ様のことをスレイナ様と言った。その呼び方が、なんだかおかしく思えるのだ。


 普通に考えて、親族に対してそのように呼んだりはしないだろう。

 祖母上、お婆ちゃん、そのような呼び方であるはずだ。

 何故、そんな距離がある呼び方をするのか。それが、よくわからない。


「それでは、行ってもいいか?」

「あ、はい……」


 私がそんなことを考えていると、エルード様が声をかけてきた。

 色々と考えていたため、私は自然と頷いてしまった。

 ということで、エルード様は戸を叩く。これで、いよいよ、スレイナ様と対面しなければならないのだ。


「あら?」

「エルードです。叔母上を連れてきました」

「入ってちょうだい」


 エルード様の言葉に、中から声が聞こえてきた。

 その声色は、二人に比べるととても平静だ。感情が、あまり読み取れない。

 彼女は、何を思っているのだろうか。やはり、とても怖いものである。


「さて……」


 エルード様は、ゆっくりとその戸を開いていく。

 それにより、中の様子が見えてくる。部屋の中にいる老齢の女性が、スレイナ様であるようだ。


「……あなたが、アルシアさんですか」

「はい……アルシアです」


 スレイナ様と対面して、私はとても緊張していた。

 彼女が、結局どういう人なのかわからないので、何を言われるのかとても怖いのだ。


「なるほど、確かにあの人の面影がありますね……」

「あっ……その、はい……」


 スレイナ様は、私の目をはっきりと見てきた。

 その鋭い視線に、私は思わず目を逸らしてしまう。

 視線だけで考えると、グルラド様から聞いた評価の方が正しい気がする。この人は、かなり怖い人なのではないだろうか。

 いや、私にだけこういう態度の可能性もある。どちらにしても、とても怖いことには違いないのだが。

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