『雨女の詩』

甲斐央一

第1話【プロローグ】呟き

「雨が、降ってる。ふぅ~……いけない。いつの間にか、うたた寝をしてしまったわ。それにいつの間にか、にわか雨が降りだしている。あ~部屋を片付けなきゃ」


 私は、ふと目覚めた。季節は秋。ポカポカした陽気に誘われ窓辺で横になり眠ってしまったようだ。女心と秋の空とは、よく言ったものだ。午前中は青空がいっぱいに広がっていたのが嘘のようだ。今は暗く少し肌寒い。


 夫が定年退職して暫くして70代ぐらいなると、私達の故郷であるO県に戻ろうと以前から話していた。子供も嫁いでいき、孫も中学生だ。もう、心配もいらないだろう。老後は静かに暮らしたい。その思いがついに実現した。この春に都会から夫婦で私の実家に戻ってきたのだ。家のリフォーも済み、もうすぐ半年も立つのに未だ引っ越しの片づけが終わっていない。片づけ下手な私には辛い作業だ。納戸には段ボールの山が、未だ多く眠っている。


 私は窓辺に目をやった。窓の外には確かに雨が降っていた。そのガラス越しに山の頂に元鉱山のシンボルである、中央堅抗櫓が密かに佇んでいるのが目に映る。なんだか懐かしい。帰ってきたのだ。そんな思いがあの櫓を見ると、一層強くなる。


 O県の県北にあるこの地域。今では町の名前が変わってしまったが、昔の面影が確かにある。


 さて、部屋を片付けないと。そんな思いに駆られて重い腰を上げると、私は納戸に行き、手短な段ボールの箱を開けた。その中には、数冊のアルバムと1冊のノートが入っていた。私は次々とアルバムを捲り、昔を懐かしんでいた。


「ふふっふっ、懐かしいわねぇ」


 白黒写真からカラー写真へ変わる様は、まさに時代を反映したようだ。一通り目を通すと、今度はノートを開いた。


「何かしら?」


 ノートを開くと文字の山が溢れている。ああ、そうだ。思い出した。これは自分史だ。5年位前からボケ防止にと、古いアルバムを捲りながら、過去の思い出を書き連ねていたものだ。ノートの最初の表紙に「雨女の詩あまのページ」と表されていた。


 ページを捲る度に私は思い出した。ああ、そうだ私は雨女。とはいっても妖怪あやかしの類ではない。何かの行事の時には必ず雨が降っていたのだ。と言うか、雨の思い出が多いのだ。


「雨は好きですか?」と聞くと多くの人は困ってしまいますよね。たいていの人は嫌い、っていいますよね。ジメジメするから、服が濡れるからとか、色々有りますよね。


 でも、1年365日の内1/7以上は日本のどこかで雨は降っています。恵みの雨と言う様に、その雨は私達に思い出と共に、生きる為に必要な、大切な水を与えてくれています。


 見かた、考え方、気分を変えれば、そんな雨の日の気持ちも変わるかも知れません。


 普段どこにでも有る、雨の情景を「雨が……」で始まる様に日記風に書き集めてみた自分史。


 あなたの心の1ページとシンクロ出来れば、幸いです。








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