第14話
千の夜に化け、野を駆け舞う。
二人は、ただの高校生でしかないはずである。
実際、妙な力があるのは、
小雪姫は、服を作る。仕事の内容を知り、最適な服を縫い上げる。
つまり、小雪姫は千夜と自分が何者であるかを知っている。二人は、高校生だ。そんなことは、解り切っているし、質問の意図も通らない。
高校の旧校舎まで、出向く。木造校舎の端、使われなくなった新聞差しに触れる。鍵はかかっていない。ふたを開けると、折り畳まれた白い紙がある。窓を好む人物から最も程遠いのは、言うまでもなく扉だ。それも、外と中を隔てるもの。さすがに、 毎日出入りする新校舎のそれは除外される。紙を抜き取り、非常口の前の石段に座す。手の中にあるのは、契約書だ。
*
インターホンを長押しする。
せとかの人差し指が横入りする。卓球のラリーを思わせるチャイムが鳴り響く。舌打ちに、隣に居るせとかが顔を向ける。
「ここは、
「いや、そういう
「だって、知り合いの家だし」
そう、ここはせとかと自分、共通の知人の家でもある。にらめっこをしていると、随分、騒がしい足音が近づいてくる。
「どちらさまですか」
ドアを開けたのは、まさしく知人の少女であった。いや、こちらが一方的に知っているというだけである。
小さな女の子には不釣り合いな長い髪の毛。せとかは考えもしなかっただろう。彼女は少々お人好しが過ぎる。
「せとかだよ」
「わあ、せとか君。こんにちは。そろそろ来る頃だろうって、セダカ君が言っていたところだったのだよ」
「うえっ?」
目線を合わせるためにかがんでいたせとか。ゆっくりと振り返る。
「だから、言っただろう。セダカ君に会わせてやると。ここは、セダカ邸だよ」
「え、でも、
「そうだよ」
少女が首肯するのに合わせて、髪の毛が揺れる。
「セダカ君は、おじいちゃんのあだ名だよ」
部屋に上がる。
当然のように、本の家の主は自分だけ睨みつける。
「セダカ君、見つけた」
「私の名前は、菅沼春太郎だよ。それがどうしてセダカ君とやらになる」
後ろでせとかがそわそわしている。うるさい。
「浅田さん、春太郎文庫を出して」
「はい、どうぞ」
掌と本がぶつかり、いい音がする。痛い。
「あ、ごめんね」
「いや」歯を食いしばり、我慢する。
「私、解ります」
祖父のベッドに仲良く腰掛ける孫娘が得意げに宣言する。
「言わせてくれよ」
「じれったいもの。そんな私が渡した本なんか持ち出して」
意味不明である。問題を出しておいて、回答も見ずに解答してしまうのである。
「本に書いてあるの」
「なんなら表紙に書いてある。もう一度よく見てみればいい」
本を返す。うんうん唸りながら、せとかが文庫本を調べる。
「作者は、
「うん、だから、セダカ君が書いたものだもの」小学生は待ちきれないらしい。
「お前、ちょっと黙って」
「何よ」
せとかより、よほど女子らしい。高校生が小学生に負けるなんて酷い。
「はっ、ちょっと待って。せだ、くん、ぷう」
「大方、セダカ君から、とって名づけたのだろう。そこの孫娘が言っていたように、セダカ君とは、春太郎さんのあだ名らしいな」
「へえ、そうなんだ」
素直に納得するせとか。
「それで、これは、結局どういう話なの。セダカ君の正体が春太郎さんだということはよく理解しましたけれど」
頭を傾けると、さらりと髪の毛が肩の上を滑る。
「まあ、お茶でも飲みながら話そう」
春太郎さんと目が合う。
「準備してきます」
「私も手伝う」せとかが、挙手する。
「要らない」手で制す。
「いや、要るだろう」手を制される。
「本当に、結構ですから」手を振り切る。
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